●円山:混雑課金の政策分析:最近の世界の動向と新しいモデルの提案

■概要

道路混雑の緩和・中心市街地の活性化施策として注目を集めているロードプライシング政策は、コードン課金とエリア課金の二つの課金体制がある.コードン課金についてはいろんな研究がなされているのに対し、エリア課金を厳密に評価した研究は希少である.そこでエリア課金を厳密に評価するための新しいモデルを構築し、沖縄・宇都宮の都市圏に適用してこの二つの課金の特性について比較検討を行った.

■内容

○研究の背景・動機・目的
・ロンドン・シンガポール・ストックホルムなど,世界各地でのロードプライシング施策の実現
・コードン課金とエリア課金の比較手法がなく,評価指標が不明瞭
・エリア課金を厳密に評価する”非加算型トリップチェインモデル”を構築し,実都市圏で特性を比較

○世界各地の混雑課金政策の実際
・コードン課金
-エリア外の地点からエリア内に流入するごとに課金されるシステム
-環状線が整っている都市において有効と言われている
-課金地域の流入リンクへ課金抵抗を付加すれば表現可能
-シンガポール(現在)・ノルウェー
・エリア課金
-エリア内への進入に対し,一日単位で課金するシステム
-都心に人口が集中している都市において有効と言われている
-リンク単位では表現不可能
→エリア課金は非加算型のトリップチェインコストとみなせる!
-ロンドン・シンガポール(初期)
・目的
交通混雑の緩和だけでなく,道路などインフラ整備資金の調達という意味もある.
・ロンドン
-各地に観測機を設置し,ナンバープレートを画像で読み込み,課金する
-7:00-18:30まで5ポンド(約1500円)の課金
-2007年にエリアを拡大し,8ポンド(約2400円)に値上げ
-初期投資(約200億円)が大きく,運営は赤字であるが,自動車数の33%削減に成功
・シンガポール
-1975年世界初のロードプライシングの導入(エリア課金)
-1998年から料金変動型(80-200円)のコードン課金に転換
-料金は3ヶ月ごとの平均速度データをもとに,30刻みで設定される
・ストックホルム
-周りを海(川?)に囲まれているため,エリアに橋が多くかかっており,課金が楽
-流入・流出一回あたり1-2ユーロの課金

○基本モデルの定式化
・1956年Beckmannモデル(トリップ型)
”リンクパフォーマンス関数と逆需要関数の差”の最小化を制約条件とする利用者均衡配分
・逆需要関数部分のトリップ型からトリップチェイン型への拡張
incidence matrixでトリップチェインを表現

○発展モデルの定式化・解法の構築
・コードン課金では,リンクコストに課金抵抗を含むことで評価が可能になる
・エリア課金では,課金抵抗をリンク単位に分解することができないため,課金される経路集合のみ課金抵抗を加える
・計算アルゴリズム
一意の厳密解への収束が保証されている

○実都市圏への適用
・三つの評価指標
-社会的余剰
-課金収入
-利用者余剰(社会的余剰-課金収入)
・沖縄本島への適用
-最適コードン課金250円,最適エリア課金500円
-最適課金時のコードン課金・エリア課金の社会的余剰は一致
-最適エリア課金時の課金収入は最適コードン課金時収入の1.6倍
-コードン課金のグラフの方が傾きが急であり,より慎重な料金設定が必要になる.
・宇都宮都市圏への適用
-規模の異なる6つのエリアを設定し,コードン課金とエリア課金を比較する
-課金区域の拡大につれ,最適課金額・社会的余剰の増加
-最適課金時の社会的余剰はエリア課金の方が大きい傾向がある
-課金区域の拡大につれ,ジニ係数が増加し,空間的に不公平であるといえる
-エリア課金の方が,コードン課金より,わずかながらジニ係数が大きく,不公平

○結論
・エリア課金の厳密な評価手法として非加算型のトリップチェイン型ネットワーク均衡モデルを提案し,解法を提示した.
・トリップチェインのincidence matrixでの効率的なデータ表現を提案した.
・実都市圏に適用し,最適エリア課金が最適コードン課金より高いこと,課金区域の拡大に伴い,最適課金額が増加することを示した.

■質疑応答

Q.incidence matrixでトリップチェインの順番が分解されてしまうが問題はないのか?

A.分解により,経路情報を保存することはできないが方向性や経路集合が分かるので,理論的には問題ない.

Q.エリア内部の交通量は実際どのように変化するのか?

A.正確な集計はしていないが,コードン課金より,エリア課金の場合の方が,内部交通量が減少していると考えられる.

Q.トリップチェインを用いることで再現性は向上したのか?

A.正確には計測していないが,トリップチェインを用いることで特に再現性が上がることはないと考えられる.

Q.ロンドンのエリア課金の場合には,監視カメラをいくつかの場所に設置することが必要になるが,そのカメラの設置場所により,トリップの種類や交通量が変わるため,観測場所の設定によっても交通量がかなり変わるのではないか?

A.そのような可能性は充分にあると考えられる.

Q.エリアの最適化はどのように求められるのか?

A.料金設定の異なるダブルエリア課金やダブルコードン課金についても表現が可能なのでそれらの組み合わせも含め今後考えていきたい.

Q.実際どのような都市でロードプライシングの導入が可能か?

A.環状線があり,放射線が太く,代替交通手段(LRTなど)が充実していて,都市構造の変換に積極的な都市(金沢・名古屋・松山など?)

Q.コードン課金・エリア課金の社会的余剰の関数が沖縄・宇都宮の両都市で同じ形状をしているのは,偶然か?

A.一般的に,どのような都市においても同じような形状になると考えられる.また,沖縄において最適課金時のコードン課金・エリア課金の社会的余剰が一致したのは全くの偶然.

Q.宇都宮都市圏でのエリア課金の社会的余剰関数で下に凸のあるものがあるのはなぜか?

A.収束条件が緩かったため.収束条件を厳しくするときちんと収束し,きれいなグラフが描ける.このとき,最適課金額が少し原点方向に移動した(安くなった)ことから,均衡条件を厳密に求めることの重要性がわかる.

Q.ロードプライシングの導入により,境界付近の交通量にどのような影響を及ぼすのか?

A.代替経路選択の増加により,交差点での混雑や特定の経路での渋滞が見られるかもしれない.事前と事後のデータがとれてるものが無いのでなかなか比較が難しい.

Q.トリップの初期にエリア内に進入するものとトリップの後半にエリア内に進入するものでは,課金抵抗が異なるのではないか?

A.確かにそう考えられるが,経路の順序を分解したincidence matrixによるトリップチェインの表現では,初期と後期を考慮することが不可能である.

Q.今後の発展方針について

A.トリップ目的別や頻度別など,さまざまなトリップの特徴別に課金抵抗を表現する. マルチモーダルを考慮したトリップチェインの拡大