●山口 敬太(京都大学):水路とその利用システムから読む都市の空間組織
■はじめに
歴史研究と計画をどうつなげるかをテーマとしている.モノ,意味,システムをどう読むのか.
なぜ,この水路と集落というテーマとしたのか.
琵琶湖の針江というところが興味のはじまりで,湧水のある地区が好きで.ずっと通っていた.
中国の都市を回っていて,水路の使われ方がどても豊かで,水もきれいである.
空間と水の利用は結びついていると考えている.
■対象地:伊庭について
近江八幡の文化的景観の話が2006年前後から出てきた.
端に街並みとして解くのではなく,制御システムとして解く必要がある.
敷地として解くという視点である.
集落は,各場所の要素としてではなく,全体としてシステム(系)として成り立っている.
系には自然の中での意味と,暮らしの中での意味とある.
どういう風に見えたらいいという意味ではなく,暮らしが空間として現れていることが大事である.
これを読んでいくことが重要であり,それを計画に表さなくてはならない.
景観の見え方という要素だけではない.
水との関係性の中で研究をしたいと考えて,琵琶湖の周りの集落をまわって,一番おもしろかったのが,琵琶湖の伊庭であった.ここが今回の研究の対象地である.水路の張り巡らし方が特徴的である.
水もきれいであり,水路は住宅の面して巡らされており,外から見ると特徴的であるが,とくに文化的景観,保全の対象とは捉えられていない.伊庭の人々は,どこにでもあるものだと思っている.
■資料による歴史調査
ここの歴史を考えるにあたって,まずは材料を集めた.それを紹介したい.
縄文遺跡としては,漁業と稲作の跡がある.
干拓事業が戦前戦後に行われ,水量が下がり,水の使われ方が変わってきている.
伊庭村縮図をを見ると,物資はほとんど水路で運ばれる.道路よりも水路のほうが広い.
道がなく,水路しかない場所もあった.水路によって,集落の構造が規定されている.
明治の半ばで,家の数と同じだけ,舟の数があった.
どの水路を民間のものと換地するのかとい1922年の資料がある.
これをもとに大正期の水路環境の復元を行った.
当時の状況を把握するための資料をさらに探すと,圃場整備の際の資料があった.
これにより,埋め立てられた水路がわかる.1980年でも多くの水路が残っている.
こういった形で当時の水路の状況を把握した.
これを基にどう空間を読み解くのか.
■インタビューによる調査
インタビューによりどういった水路の使われ方の把握を行った.
近江八幡まで舟でいったという話もあった.
田圃への中距離の移動をみると,道はなく,水路でしか移動できないことがわかる.
いかに田舟が重要だったかがわかる.
副業として漁業を行っている世帯が3割程度あった.
集落の中で琵琶側に住む人は農業・漁業を行っている世帯が多く,離れている側では商人が多い.
他の調査では,琵琶湖の沿岸集落では,飲用や炊事用に川の水が多く使われているという報告がある.
伊庭ではどうだったか.
やはり,昭和30年代くらいまでは飲用・炊事・風呂に使っている話があった.
インタビューのときにいろんな写真も出してもらった.
洗濯,移動,遊び,など.社会の先生にたくさんの資料を提供してもらった.
それがだんだん埋められて,景観が変わる.70年代から80年代にかけて,田舟からミゼットに変わった.
それが悪いということではないが,当時はそういう時代だった.
■水路の変遷
自治会に全面的に協力してもらったからできたことである.
なぜ,水路がなくなったのかがだんだんとわかってくる.
袋状の水路,交通に使われないところは徐々に埋められていく.
田圃へ水を引くための水路ははじめは残っている.
川からの排水路が整備され,川から田んぼに水を引く必要がなくなると,水路が徐々に意味をなさなくなる.
■地元住民と水路
こうした流れの中,水路を守ろうという人たちが現れる.
近江八幡では守られたが,伊庭では失敗をした.
車がないと生活できないという声にどう対していいのかがうまくいかなかった.
一度は失敗したが,2010年前後から,再び歴史を大事にしたいという声を下に活動が再開された.
景観形成重点地区に2014年に指定された.2010年ころは誰も景観,文化という考えて,自分の地域を捉えていなかったが,徐々に意識が変わってきた結果であった.
景観への無意識の状態から,まちへの関心の拡大を図った.無意識の壁を取り払うことから始まった.
それが住民によって発見されたということである.
ここからさきは景観保存へのコンセプトが共有されていく必要がある.
最初は,水路をどうしていくべきかというアンケートをおこなった.
公園としての保全してほしいという声も意外と多かった.いかに景観の価値を損なわずに,保全していくのかということを考える必要があった.
八景を集めて,ニュースレターにした.とても気に入ってもらった.
遺跡が残っていくが,暮らしにはつながっていない.というのが問題であった.
それが計画に反映できるのか.当時の暮らしは復元できない.
50年ぶりの田舟の復活を行った.
■空間組織
本題として,空間組織をどう読むのかということである.
当時の地割と水路のめぐらし方が合っていることが当時の地図からわかる.
どの家からも水路にアクセスできるようになっている.
水上交通が重要であり,橋はほとんどなかった.
水路と住宅構成の関係性について説明したい.
カワトとの関係から玄関ができていて,どこがメインのアプローチになっているかがわかる.水路側に庭や風呂,農具置き場がある.
そういった暮らしとの関係をみると,ここの景観がどうできているかが見えてくる.
今後は,空中写真をみながら,住宅の増築と水路—道路の変化との関係をみたいと考えている.
水路が廃止され,使わなくなった田舟の廃材をつかった蔵などが町で見られる.
■おわりに
空間の再生をどうやったらいいかを考えたい.
どうしたらいいと思うか.
(芝原さん)祭りの際に川床を張るということがあったが,日常的な使い方があったほうがいい.
そういったことは確かにある.今は魚を使った活動を考えている.
ホンモロコという高級魚がいる.この漁業が当時行われていた.
この魚の,生態保全からビジネスへの活用をいま考えている.
今回の話のまとめとして,次の3つがある.
・歴史風土の尊重を,いかに計画論として立てるのか.
・計画・戦略の精度・熟度を上げるのか.
・専門性の高い調査による価値のあぶり出しが必要である.
歴史風土をいかに現代的に翻訳して計画にするのか,これが大事である.
計画家だけの調査ではなく,地理や文化,歴史の研究者ともあわせて議論している.
歴史資源を,今のストーリーにいかに変えていくのかが大事だと思っている.
モノというのは実態である.意味は価値と記憶の問題である.この二つだけだと,運動論であるが,システムとして合理性を作らなくてはならない.
■討議
芝原:
公共空間から変えていくという方法論はないのか.
川が使われなったが,祭りに使われたいりしていて,どういった使い方が良いのか.
山口:
八景を検討するときに,色々議論したが,おじいいちゃんが言っていたのが,当時川で遊んでいた記憶というのが伊庭の記憶として残っていて,それを今の子供にも経験してほしいということであった.
モノも大事であるが,経験というのが大事なのではないかと考えている.
芝原:
意味を読み取るというのが専門性として重要なのか.
山口:
モノは実態として継続する.意味は価値の問題である.システム,合理性は時代とともに変わっていく.システムはうまく時代時代に順応させていくことができるのではないか.
羽藤:
モノやシステムは専門性であるが,意味は危険ではないか.
山口:
意味もモノもとにかく集めるということが大事なのではないかと考えてる.
中村:
経験に必要であれば,整備がいるのではないかと思っている.身体記憶に興味があるが,神経科学でも話すときに使った記憶が残りやすいということがあって,一度でも自分の経験があると日常生活に影響を及ぼすということがある.一度でも,経験することが意味となり,大事なのではないかと考えている.もちろん,難しいことではあるが.
羽藤:
難しいけれどもやったほうがいいということか.
山口:
食文化の話をしたのだが,,ほんとにすごくおいしい.それが昔から今にかけて食文化として伝承しているということだろう.
中村:
車を使うようになったりして水路文化はなくなっているように見えるが,実は続いているものもあるのだと思う.そういったものをいかに見守れるかが大事である.過去の話をして,未来の話をするという難しさがあるが,,
山口:
景観を保全しようと思っても,拘束力は弱い,住民にいかに受け入れられるかが大事である.風景を守るということでなく,それだけではない,色がついた計画を作る必要がある.
羽藤:
日本の歴史保全の問題はなにか.
山口:
形だけの保全になっていて,それが文化,使われるという形になっていないのが問題である.
羽藤:
意味やシステムを読み込んだうえでの,建築などの分野の中では運動論は出ているのか.
正当性をもった保全というのが大事であるが,それが難しいということである.
(聴講者):
住まわれている方は,周りに水路があって,車がつけれないといったことに対して,不便であるという意識が強いのか.
山口:
二極化している.昔は埋め立て派がいて,それが近代化であるという意識があった.その対立がシビアであった.今でもそう考えている人はいる.その人たちに,例えば,魚がいることで地域が潤っているということを知らせる,といったアプローチもあるし,そうじゃないアプローチもあるだろう.
(聴講者):
最低限の道路と,保全できる水路をいかにうまく計画していくのかということを考えられないのか.
暮らしもよくなり,保全もされるといういいとこどりの計画があると一番いいとは思っている.
羽藤:
区画整理というとよくない印象があるが,集団として意思決定をする際にいかにそれぞれの人に計画の良さを捉えてもらえるのかを考えなくてはならない.そういうときに,いくつかのレベルで案を出していく必要があるのだろう.
(聴講者):
いいとこどりをする際には価値判断が必要になるが,その際にこの調査が必要であろう.当時あった集落のアクティビティを,現代の生活に基づいて展開できる場を,どう与えることができるのか.
唐沢:
無意識の壁をどう乗り越えたらいいのか.モロコの話は,これを計画といて捉えていいのか.
山口:
もともとは何も意識としていないのを,インタビューすることで,意識に変えてくれている.
モロコの話は,当時から価値となっていた.
●中村 優子(ウィスコンシン大学):ヴァナキュラー建築の研究手法とその展開 -都市の中の建築史-
■概要
手法と事例を見ていく中で,vernacura architecture研究と都市形成史研究の関連を見たい.
まずvernacular architectureの定義について.「Common Places」はヴァナキュラー建築に関する論文をまとめた本.定義は難しいと書いている.vernusが奴隷,女性形がverna.変形してvernacularとなった.William Barlowが1601年に書いた使い方が初出だそうだが,定まった定義は存在しない.urban morphologyと比べて小さなスケールを対象にし,周りをcontextとして捉えている.
Milwarkeyのboulevard innというレストランの移転・改築について.2003年の閉店まで3回の移転と40回以上の増改築をした.オーラルヒストリーを中心に,新聞,写真,エフェメラ,建築改築申請資料等を用いて街を作る個々の要素が周囲のcontextからどう影響を受けているか明らかにする.
■質疑
山口:Milwaukeeはパークシステムで有名な街だが,民間の建築がboulevardを作っていたというのは面白い.なぜboulevard innという名前なのか.boulevardの空間文化の波及があったのかもしれない.
中村:3代目の敷地は1910年くらいからずっと飲食店だった.ビアホールとか.boullvard cafeという名前の店を買ったのでBoulevard Innという名前にしたのだと思う.
山口:空間のしつらえが街路にまで影響を与えたか.
羽藤:boulevardに対応する生業,建築空間が文化だったのだと思うが,ミルウォーキーで再解釈された空間があったのか,どのような文化だったのかがわかると面白い.
山口:そこのcontextからconceptを借りているのかもしれない.パフォーマンスとおっしゃっていた働きは,作られる前のcontextから受ける影響と,作られた後のパフォーマンスと2つあると思う.
中村:4つめの移転は周辺で反対があったらしい.これ自体がこの場所のcontextになっていたということ.contextとActionの相互の関係を見たい.
山口:車が増えて,boulevardが普通の幹線道路になっていくような, boulevardシステムの機能不全とも取れるように思う.店の顧客リストは?
中村:クリスマスの名簿くらいしかなかった.メニューの書き込みについて民俗学会で発表した.何個売れたか,うまくいったかなど..
山口:移転時の周囲の論調は?
中村:郊外のレストランに行くplace to goはないので,この店がなくなったら困るという感じで,攻める論調だった.ここで成長したのになぜ出ていくのか.再開発先に入っていくので,捨てる気かという感じ.周囲がinner city化してきていた.Milwaukeeに来たらここ,という感じのレストランだったので.
・聞き取りをベースにしているのか.
→工学の研究と違って,仮説検証型ではない.現象を読み解く形.顧客にも話を聞いている.
・どうしてそこを選んだか.
→全体の大きいプロジェクトがあって,ここは外せないねということで.
・今回の手法は,「小さなおうち」のような印象を受けた.定点観測的に見ているような.選んだものがすごく良いと思う.こういう手法の研究の仕方ではレストラン以外でもされているのか.
→grocery shopとか,生活の拠点になっている場所.資料はかなりない方.
・山口さん:水路の変遷,中村さん:計画局面の分析を見ているが,衰退局面においてどういう計画論を考えているか.
山口:この街が最も使われていたときを考えている.形態もそのときに多く使われている.それを読みとかないとシステムが読めないのかなと思う.中でもピークを探すという視点を持っておきたい.
中村:全体を見ることになるが,論文にするときに例になる部分を話す.すでにないものなので,話が全て.
・都市の歴史の中で価値があるというのは,形成史を考える上で重要だと思うが.
中村:可能性があるかというか,計画論的に可能性があるかというと,どれだけあるかは難しいが,コミュニティのリソースとしてあった建築を計画論に含めるのであれば,話を整理しておくことは重要ではないか.built environmentに反映させるという意味ではあまり意味がないと思うが.
山口:実際に研究に入るときに,計画につなげようと思ってはやらない.そもそもなぜおの集落はこの形なのか,ということがわかればまずは良いと思う.
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