●羽藤:はじめに

科研の基盤Aで僕が代表やったのは2003年のときですが,最初にBCALSを開発して,PPを開発した.当時はまだそういう技術が世の中になくて,センサーをたくさん筐体の中に押し込んで,故障ばっかしでしたし,大赤字だったけど,なんかいろいろ計測できて,国際学会なんかで発表すると受けた.というレベル.ライフログといわれている研究の走りだと思う.でも今はもう測れるのは当たり前で,むしろポータブル化とか,サービスインテグレートにつながってきていて,もう一回今年から2012年まで基盤Aの代表をやることになって,今度は何をやるかということは前回話したんだけど,何をやるかという前に,ちょっとだけ今の時代感について考えてみたい.

そもそも私たちの分野って言うのは,理論的なアプローチでやってきていて,1960年代にThe prigogine-herman kinetic modelっていうのがあって,ボルツマン方程式を援用したトラフィックフローモデルなんだけど,二相流モデルによる一般街路モデルで,ナビエストークがマクロ系なのに対して,ボルツマンはミクロ系で兎も角疎な交通流を記述する積分微分方程式が提案されている.

Robert Hermanとその仲間たちの中には,線形加速器による高エネルギー電子散乱の研究と核子の構造で物理学賞をもらったRobert Hofstadterや,Hermanの宇宙マイクロ波背景放射の予言を証明したPenzias and Wilson(物理学賞)などがいて,兎に角研究が学際的であり活発だったし,数理解析的におもしろい話がごろごろしていた.

今は,「情報処理」から「情報管理」に,「モデル」から「データ」へ,データドリブンな社会,「データこそが最後に残る真の資産」であり,「データからの戦略的な価値の抽出が最も重要な役割を果たす」という考え方だったり,情報蓄積量が約1.8ゼッタ(10の21乗)バイト になって,「データインテンシブなサイエンス」 への大転換期だとかいろいろいえる.だけどデータだけとってもしょうがないって話がある.

理論失くして観測ナシという言葉はあるけれど,SPやパネルが出始めて,差分方程式系で学習メカニズムを記述しようというような話が当時あったりした.ああいうアプローチは実験経済学的な方向性と,プローブのような世界へ向かうわけだけど,どちらかといえば,我々の分野では政策を向いた研究テーマが多くて,なかなかそうしう手法論が深まっていかないし,モデル的なところに関心を持つ人も減ってしまったという気がしている.

ただ,そういう現状認識があるにはあるのだけれど,そこに危機感を持っているというよりは,僕自身はそこのところは楽観的で,データもモデルもそろそろ,抜本的にリプレイスできる時代感じゃないかと思っていて,なぜかというとそのためのデータ獲得のための要素技術や数理的な手法論も進化してきているし,寧ろ政策論と一体化できるところもあるのではないかと思っています.今日は,そのあたりを念頭におきながら,モデルと政策,データと政策について都市計画や土木計画学に今求められているものについていろいろ議論できればと思っています.

●毛利:社会資本整備の現場で求められているもの

社会資本整備を取り巻く日本の現状を考えると,1)人口減少,2)財政赤字,3)公共事業に対する国民不信,4)政治・行政の動きがある.

人口減少は2004年にピークで減少局面に移行しつつある.2050年に1億人を割り込み,高齢化率は40%越える.地域別の人口の減り方に着目することが重要で,人口が一番減るのは秋田.北東北は2030年に0.776,四国は0.816となる.事業評価しようとしているところが人口減少が著しいのが難しいところ.

財政赤字は税収でまかなえているのは6割強で,約3割は将来世代の負担である.公債残高553兆円で,高齢化進展に伴う社会保障費増が問題である.Ig/GDPの推移は1995年6%から今は3%で海外と同じ水準になった.社会保障費はあがってきていて,公共事業と教育費がイコールになりつつある.

公共事業に対する国民不信,道路中期計画65兆円(平成20年度から29年度)が出された.平成20年の春の(ガソリン)国会で,平成17年の新しい道路交通センサスに基づく将来需要推計では,交通量を下方修正される(国土交通大臣に対する道路交通センサス,免許保有推計に関するコーホート」に関する質問)と指摘された.中期計画の前提条件が崩れているという議論になった.すべての道路財源を一般会計化し,暫定税率2.6兆を高速道路の償還にあてるという意見が出された.B/Cの時間価値設定(時給3700円)に関する問題が指摘された.道路をどうするか(小川明雄・五十嵐敬喜)における可住地面積で道路延長を割ると,ドイツの2倍程度になる,あるいはIg/GDPは6%で高い(現在は同じ),可住地面積で道路投資額を割ると95.6百万円で諸外国の10倍以上であるという主張がある.

政治の動きでは,揮発油税を道路整備に使うことをやめる法案が可決された.法案の中では,道路関連支出の無駄の排除,特定財源の廃止,新たな中期計画(集中と選択の基本的な方向性とアウトカムの設定により社会資本整備重点計画(5年)と一体化する),地域の基盤整備(地方道路整備臨時交付金に変わるものとして,地域活力基盤創造交付金),既存道路ネットワークの有効活用と機能強化(高速道路割り引き,距離料金導入),一般財源にともなう関係税率のありかたが示された.様々な政策がなされているが,エビデンスに基づいて政策実行がなされていない.

行政の動きでは,3月31日にB/Cの値が1以下の18事業の凍結(コスト削減など事業評価の見直しなどの検討を行い,再評価を実施して事業継続の可否を決定する予定).7月28日には2ヶ月で再評価という話になって凍結区間はすべて解除された.

自動車交通需要予測に関連する指標として,GDPが増えているし,免許保有者数(特に高齢者,女性)が増えてきている.貨物車の保有台数が微減し,乗用車の保有台数は増えているが微増だが,四国ではじめて去年減少となった.でも実はその中身は軽乗用車をのぞけば全国でも減少傾向にある.軽乗用車の利用の半数以上は女性の既婚者である.西日本で特に軽乗用車の保有率が高く,道路整備率と関係しているかもしれない.今の若い人は外に出ないし,車に乗らないという車離れの傾向があるのではないだろうか.貨物は2000年以降,基本減少,1トンあたりの付加価値は増加,物流の中で9割は貨物による移動.

過去の予測はGDPの当たり外れでずれが生じる.人口,免許,貨物,軽自動車や高齢者/女性の移動を踏まえて予測する.真面目に計算すると,人口は減るけれど,免許保有は増えるので交通需要は増えるというV字予測になる.ガソリン価格の弾力性を加味すると,V字ではなくて緩やかな需要減少という結果が予測できる.要するに予測には幅があって,その幅の中で低位予測値を用いた.という経緯がある.需要推計は量だけでなく質が重要.迅速かつ柔軟なモニタリングが重要である.

道路事業評価においては時間価値の見直しがなされて,62.86円(平成15年)が,40.10円/分・台(平成20年)になった.諸外国における事業評価は,日本は三便益(走行時間短縮,走行費用減少,交通事故)で評価しているが,もう少し多様な評価を行っている.地方は三便益では成り立っていかないのは明らかであるという地方の主張がある.東北では救急救命センターへのアクセスや豪雪,車依存を考えて便益評価を見直すべき.

可住地面積についてもう一度考える.国際比較を正確にしてみる.たとえば60km/h以上のネットワークでみると,道路面積はそれは諸外国にくらべ整備されているとは言いがたい.

今問われている計画論と計画技術.交通調査,交通需要予測,評価(B/C)などの技術的なキーワードに関する議論があった.甘い予測,非科学的な,より信頼性の高い,これが今回の国会では,無駄な,水増し,利権といわれてしまう.信頼確保が重要である.国民の理解を得る,効果を最大限発揮,社会経済への貢献,次世代への影響を考えた合理性が重要.単なる知識の向上だけでは駄目ではないか.

行政,政治に提言できる先行的な政策研究が重要で,財源制約,人口減少,少子高齢化などの制約条件下で,持続可能な社会資本整備を国民の理解を踏まえて,どのように行っていく.

かつては計画をたてる(絵空ごと)が仕事だったが,今は地域が困っていることをどうやって解決するかが重要である.そういう考えの行政担当者は少ない.政治マスコミを批判しているだけでは駄目で,これまでの政策の良かったところ,悪かったところを明確に,政策の評価は,理論データを用いた分析が重要である.

財源の使い方と考え方が重要である.米国の道路投資推移は,事業費が1985年にピーク時に3割減った後,ISTEA,TEA-21,SAFETEA-LUが出てきて,投資額が倍増.TMIPなどの動きが寄与し,モデル開発がなされた.

燃料税,課金の調和化,EUは交通税との調和が重要であるという考え方である.EUのガリレオ計画があって,それで課金していこうという動きがある.道路優位は認めつつ,効率化を促すとともに,保有税<燃料税<料金という考えで,それを支える計測技術という考え方である.民主党は,暫定税率,高速道路の無料化 vs 自民党は真に必要なインフラ整備,未来への投資.これをどう考えるべきだろうか.

平成22年度道路交通センサスの大改革について議論している.そのそも道路交通センサスの調査費を半減,地方公共団体は調査費を負担できない.地方公共団体が反対すると(指定統計ではないので)一括調査ができなくなる.そもそも必要な調査データとは何か,秋の1日の交通量だけで分析評価できるのか,現場でいいアイデアが出せないし,少ないサンプルで精度の高いOD表が作成可能か.OD表が五年ごとに全国であるのなんて日本だけである.OD推定は有効な方法論だが,全国規模で観測交通量にあわせるような形で評価可能な方法論を成立させられるだろうか.しかも秋の1日の交通量データで何をやっているのか.

柏谷:道路整備見直しについていえば,85%のお金を使っている道路整備があって,B/Cが0.5と出たときにどうするか.という不良債権の問題で,0.5の損をとったほうがいいという話である.私たちはちゃんと反省をしなきゃいけない.ひとつはガソリン税がドンドン入ってきたことに対して,道路と街路の違いを説明できるかという問題があって,道路にゆがんで投資されてきたという問題がある.研究者は道のあり方をちゃんと勉強しなくちゃいけないが,それが全くなされていない.40年前に鉄道で同じような議論があった.政治がからんで地方のローカル鉄道をどんどん作った.温故知新ではないが,技術者のオーバースペックの問題を反省しないといけない.しかしその反省が生かされていない.鉄道がEUにおいて復権している.そういうところを見ないといけない.鉄道は道路の生みの親である.アウトバーンは鉄道工学の技術で造られている.そういうことを教養として勉強しないといけない.道路事業の問題は,科学術をしっかりとしなければいけない.街の中の道路をどうするかという問題は,元にもどって道路と街路の作り方を考えないといけないということだ.街路では殆ど用地買収なんてしないで,区画整理事業で街路はやってきている.大阪府では近年10年以内につくった道路の5割は用地買収ゼロでやってきている.将来のこの街がどうなっていくのかということを考えていかないといけない.香港が日本の未来.外部依存性が高くなって,部屋は寝るところだけあったらいい.ワンルームがあればいい.香港は食べ物やがたくさんある.そういうライフスタイルである.日本は果たしてそういう街になるのではないか.街中にコンビに,飲食店がある.ロンドンのような移民もいて高級化が起きているというようなmixed useでもないし,欧州の中心市街地のようなジェントリフィケーション(高級化)でもない.サービス依存性の強い街,それに対する欲求がある.日本はそうなるだろう.そのことをどう射程に入れるかだ.

毛利:そろそろ撤退しなくちゃいけない都市が出てくる.そういう街が出てくる.生き残る街はどういう街なのか,集約型都市構造ではないだろう.もっと低密度な都市増を描く,低炭素型都市なんていっている場合じゃない.

森川:都市の生活者の像を描くことが大事.ちょうど午後のプレゼンテーションで用意していたが,交通において香港の事例もそうだが,生活者の像を描くことがまず重要である.その上で交通を議論していくことが求められている.

羽藤:都市工学科にいて思うのは,総体としての都市をみつめた議論が道路の人はできていないんじゃないかということ.なんだかんだで量の話しかしない.街路じゃなくて道路の話しかできないんじゃないかと思う.縮退だと多孔質化みたいな複雑な移動空間みたいな都市の中の話と,都市と都市の間の話は確かに全く違う.生活者の像をデザインするというセンスが欠けているように思う.

●佐々木:行動科学の今

行動科学WSで議論していることを今日は話したいと思っている.第1回は,行動科学について,第二回は歩行者行動の話をした.第三回は実験的行動分析の可能性,スペシャルセッションは計算行動分析,幸福感とモビリティについて議論した.

行動分析に基づいたインフラ・制度設計が可能かどうか.という話があって,分担率から車線数を決めるというような議論が可能かどうかという問題がある.実験的な行動分析と社会的な厚生との関係性があって,学習しても最適にならないものをどうやって最適にもっていくのかという議論が可能になるのかという問題がある.質的分析への展開は可能か?というのがこの研究会の目的とされているが,そういうクオリティが重要なんだけど,本当にできるのだろうか.調査方法論の展開(データのとりかた)というような問題意識がある.

浅野の研究では障害物と歩行者の移動速度分布を眺めると(分析すると),離散選択モデルを使って,空間設計ができるのではないかという問題意識によっている.羽鳥の研究では,記憶を頼りにした資源配分問題では,どのように主観的に可能性(機会・選択.イベント)をグループ化しているかに依存して,資源配分結果は異なる.こういう知見をもとにすると制度設計が可能になるのではないか.

Heresthetic(選択構造の操作)というものが(政治学では)重要で,決定が下される構造の操作が重要である.意思決定者が直面する具体的な状況や選択構造それ自体の操作,あるいは意思決定者が自分の望ましい側に選択を自発的に行うように選択構造を操作することが重要だと思う.

Nudge(Thaler, 2009):背中押し,人の行動を促すように軽くこずく.といったような現象がおもしろい.あるいは,Choice Architect(Thaler,2009)になるための研究が重要ではないか.人々が意思決定をする文脈を体系化して整理する「ある特定の目的をもってデザインを行い,自然に意思決定者がある方向に選択するような仕組み(デザイン)を行う」学生のキャフェテリアの設計では利益を最大化するような並べ方をする,自分で選ぶであろう食品をとりやすくするなどがこれにあたるであろう.

極端性回避の例だが,松竹梅のような選択と上と並の選択で,前者では竹が,後者では並が増える.選択回避では多数の選択しによる満足度の向上につながるし,ランダム効用モデルでもそういう仮定がなされている.7つの選択肢とその3倍の選択肢を設定すると,7つの選択しのほうが満足度が高い.マキシマイザーには,リグレットアバージョンが起こるためである.

土木計画学研究とNudge,燃費フィードバック,エコポイント,パターナリズムはどこまで許されるか(生き残るまち,低炭素型都市),Thalerの提唱はリバタリアンパターナリズムだったら許されるということなのか.選択させてるんだからいいんじゃないのという議論と,どこまでおせっかいは許されるのか.という問題がある.

土木計画学のための行動科学とはFeel Good State(民主党の政策として,クリントンさんがセラポクラシーを言っていた).環境のコントロールによる選択の誘導.不安のポピュリズムへの対抗には,市民の積極的政治参加を通じて構築し,情報非対称性の制御などで対抗するといっや宮台的なアプローチはある.

何かのために,どいう行動研究なのか,それとも行動自体に興味があるのか.公平.平等の原則に反しない制度設計は無理(コンドルセ),政治は法を守ることが意味を持つ社会にする(ウエーバー)という考え方もあるだろう.

目的論のために,社会的に望ましい状態を背中押しする(資源配分の効率,不公平性),適切な制度設計が重要だけど,そもそも主観的幸福感は社会厚生を評価できるか.レイヤードによる幸福に影響を与える7要因(家計,家族,雇用,コミュニティと友人,健康,自由,価値観.でも結局数個幸せならいいという考え方などがある.

そういえばあのBen-Akiva(and Maya)も,Happinessと行動修正に関する研究をはじめた.その計測法はKahnemanによるDRM(DayReconstracution Method),FreyのLife satisfactionなどがある.

終わりなき夏休みの昆虫採集(山岸),一般的な法則性を見出したり,理論家することがおろそかに.シミュレーション研究は「やってみたら,こうなりました」にとどまる.行動科学はそのあたりを受け止めていきたい.Narrative Approachの質的研究の可能性を考えていくべき.

柏谷:昔の行動科学はわかりやすかった.コカコーラ対ペプシでどっちが勝つかという問題だが,今の話は組み立てが複雑で大きなテーマを考えている.だとすると他の社会科学と比べて有利なところは何かがよくわからない.データマイニングではそのあたりがすごいお金でやられているので勝てないのではないか.

佐々木:えーと,それは何が違うかというと困るんですが.

原:そもそもINFORMSの会議なんかでは,あんまりためらいがない.記述できれば兎に角いいという考えが徹底されている.土木計画学ではパターナリズムではないか.

倉内:認知で制度設計を考えると,お互い影響を受けるので,制度そのものも変わってくる.

朝倉:Choice Architectが体系的に教えられるか,既にそういう職業はあるだろう.何を勉強すべきか?choice analysitではない.

佐々木:基本的には,行動原理を良く学びなさいということ.行動科学では設計できない.

森川:制度設計とarchitectは違う.ロードプライシングを導入する.そういう率にとっていくための設計.いかさまみたいな話.選択肢の数は減らさない,効用が下がるので,フィールグッドを考える.そのための構成をよく考えるということが重要だと思う.

羽藤:思考があるかないかでいえばなかった.認知の組み合わせをもう少し丁寧に眺めて,どうやってその目標値を達成するのかをきめ細かく構造化して考えるのがChoice Architectで,数値なし観測ナシではなんの説得力もないのではないか.おもしろいと思う.

●倉内:PTとPPのデータフュージョン1

PTは行動軌跡が断片的で精度も低い.特に長期の調査は困難,低頻度トリップや変動を捉えられない,記入漏れ,記述誤りが多いという問題がある.PPは精確かつ詳細な行動記録が可能,他用途への適用可能性が高いが,サンプルが偏る恐れがある.

両者は補完的な性質があるので,データフュージョンの可能性がある.出発地/目的地の特定精度に伴うLOS変数の誤差の問題に着目している.ゾーニングによるLOS変数の誤差の把握,誤差が交通手段選択モデルの推定に及ぼす影響などが重要だと思う.

ゾーンによる空間集計誤差がPTには発生するし,アクセス距離を過小評価するので,過大予測しやすいことが過去の研究により明らかになっている.またゾーニングの問題は解析的に分析できないといった問題がある.

名古屋のアンケート分析では,ゾーンが大きくなるにつれて相関が低下(誤差が大きくなる),小ゾーンでも実際のアクセス距離との誤差が大きい.正しいLOSデータを使ったモデル(ゾーンサイズが小さい)の方が精度が高いし,アクセス時間のパラメータ値がいい.個人属性のパラメータ値は悪くなる.セントロイドに集計してしあうと,LOSは同じでも選択結果が異なるという違いが生じるためである.時間価値にはゾーンサイズによる差は少ない.

こうした問題をどのように解決するかについて,SPデータを援用する,プローブデータを使う,山本(2005)の活用が考えられる.地点間のLOSについての誤差がない状態でSP調査は反応データを得ることが可能.ただ信頼性の問題がある.RP/SP融合推定は不適切で,SPからLOS変数のパラメータを推定しRPへ移植するのが適切.人口統計データからODを確率的に与える潜在クラスモデルもありえる.

回帰分析の操作変数法をPPについてやってみた.測定誤差と観測値が無相関であればバイアスは生じない.誤差項と相関がないと思われる説明変数(人口密度,鉄道駅数,学校の数)で重回帰を行うとバイアスが生じない(誤差項(各ゾーンのサービスレベル変数-座標ベースのサービスレベル変数)を回帰してやる).

PPから測定誤差がわかるため,測定誤差に起因するバイアスついては検証可能.測定誤差を回帰できる.問題は誤差の回帰がうまくいかない点である.シェアの予測レベルでは交通機関選択ではある程度安定.観測誤差の考察は必ずしもPPでなくてもよい.

SPとRPの融合推定のような方法は難しい.PTとPPのサンプル数が異なるので,単純な融合が難しいということ.拡大のための同時分布を得るためのPTの活用.トレンドを組み込むためにPTを活用するのがいいのではないか.移動環境と行動の関係性についてはなかなか難しい.

佐々木:説明変数に誤差があるというモデルでは駄目なのか?あるいはPTとPPの融合はB/Cはよくないということでいいのか?

倉内:ジオコーディングでやれば真値がわかれば不要.自宅や勤務地で住所がわかっていればいい.誤差の分布がわかればいい.

日々野:モデルの精度が上がっていくんだけど,細かくしていくことの意味は何か?モデルのパラメータ推定について100mメッシュにすることができるんだけど,人口の問題の方が重要.時間帯別の問題などならありだけれど.

羽藤:空間システムの評価では,アクセス,イグレスをデザインしていく必要が高いし,そういうサービス,マルチモーダルシェアリングやパーソナルモビリティのようなシステムの評価にジオコーディングをベースにしたモデルが重要で,そこの部分はPPの補正で結構よくなると思う.それにしても,どうも話がずれていると感じるのは長期の需要予測をやってきた人が多くて,短期の施策,質の施策をどう評価するか,どう制御するのかというところで何をすべきかという議論にならないのが問題ではないかと思う.

●三谷:PTとPPのデータフュージョン2

マルチモーダルの表現,マイクロ-マクロシミュレーション,トリップ-日単位(トリップチェイン)を一体的に処理,ゾーンからドットへ,逐次的に更新されるデータベースの利用.マイクロシミュレーションによる交通施策評価を目指していきたい.

取得生情報,インプット,交通行動分析,マイクロシミュレーション,アウトプット,施策評価というデータフローをオンラインで計算していくようなオンライン型情報統合プラットフォームを構築する必要がある.

アルゴリズムの開発,並列処理,言語は計算時間短縮が必要なのでCで実装するつもりである.PPとPTのデータフュージョンの中で交通量配分をやるんだけど,動的OD推定に経路選択肢集合をPPで限定してやるとどこまで精度があがるのか.という計算をしてみる.

OD推定をすると精度はあがった.何もしない場合はRSMEは109だが,PPとPTでOD推定するとRSMEは54.5まで改善する.

倉内先生の道路環境データが入手できないという問題について,PPデータを使って自動的に環境データを生成できるかどうかを見てみた.右折レーン長や右折信号や左折専用レーンの評価が自動的に可能.時間帯別の交通環境データの推定可能性な感じがある.自動パラメータリゼーションが可能かもしれない.

薄井:OD交通量の生成方法はPPでは観測できないはずなんだけど,どうしているのか?

三谷:OD交通量はあくまでPTを使っている.経路空間をPPで限定した上で収束計算を行い補正している.それと時間帯,トリップ長の拡大係数でPPを使っている.

倉内:パーソンは短距離トリップが落ちやすいという話だと(徒歩とかそういうのはどうでもいいのではないかという話もある),とすれば長距離トリップが過大推計してしまうことになるのではいか.

森川:距離帯別,内々/内外はどういう結果なのか?距離が短いもの,夜の食事がとれているように見えるので,しっかり補正することを考えたほうがいい.

毛利:内々を一生懸命とるだけだともったいない.時間帯別のOD表を精確にやるためならわかりやすい.何の政策が評価できるか.

羽藤:PPとPTの融合推定では,まず1)アクセス,イグレスのパラメータが精確に推定できるバイアスがなくなるという点にある.ここの部分はモビリティシェアリングなどの評価には必要不可欠だし,そういう粒度の細かいデータニーズが現場では高い.次に2)ある地区の空間交通システムをメゾスケールくらいで考えるとき,いわゆる内々の交通戦略を考えるようなケースでx,yベースのデータは必要不可欠だろう,最後に3)経路空間を固定できるのでOD推定の計算幅を限定できるのがPP/PTの融合推定の最大の特徴である.で,こうした利点は総合交通戦略においては必要不可欠であるというのが経験上,私の考えである.

●力石:交通行動の長期データの分析

施策検討プロセスの狙いは,行動を規定する重要な情報を保持しつつ,容易に理解,操作可能なレベルまで情報を抽出/集約することにある.交通現象からデータ,データからモデルというプロセスに着目した研究を行う.

データが取り出される場合,経日変動,個人内変動が捨象されるし,個人間変動や世帯間変動がゾーン集約されるので,PT+四段階推定ではこの部分が表現できない.世帯間変動(Goulias, 2002),経日変動など様々な変動研究がなされてきた.ここではこうした様々な変動の間の関係性を分析する.

マルチレベル分析:異なる水準にある各種要因の影響を,各々に対応するランダム変数を導入することによって扱う解析方法(MDCEVモデル(Bhat:2005, 2008)を使って,サンプル間の共分散構造を分析.

Movideriveデータ(Axhausen et al, 2002)を使って分析,アクションスペースやModal mixの分析が既に行われている.本研究では空間変動は,ゾーン単位で離散かし分析した(本来は連続空間で分析することが望ましい)

空間では,個人内変動が圧倒的に大きい,その割合は帰宅トリップにおいて顕著で,学校への移動は空間変動や,個人間変動が大きい(??なんで).活動発生では,学校トリップで個人間変動が大きい,時間利用は,必須トリップで世帯間変動が大きい.

交通現象からデータに落とす段階で,多くの変動成分が落ちてしまう.様々な説明変数の分散に対する説明力を分析した.交通行動の変動構造を分析した結果,ゾーン単位に落とし込むと全変動に対する影響を議論できる.

森川:長期調査はなんで可能なのか?トリップ原単位が大きい理由は?

力石:分散分析ではサンプル数がそろっていないといけないんだけど,より柔軟な方法だと思う,トリップの確認を電話でしてしつこく補正しているのが大きな特徴である.調査員のフォローが多いのではないかと思う.

羽藤:結局,(以前,やったモデルでは人数と日数のデータがどの程度のバリエーションを示しえるかをPPで分析しているんだけど)Pasのように変動を考慮したサンプリングデザインにもっていかないといけないし,そこが有望だと思う.

朝倉:でも逆に,そうやってそ不完全なデータからモデルを作らざるを得ないことを考えると,モデルのバイアスがどこかがわかるのではないかということに思い当たる.これはパラメータの弱いところがわかるということだろう.また活動発生プロセスの調査項目のモデルが重要というのはわかるが大丈夫か.あまりいいモデルがないように思う.

羽藤:山本さんも行っていたが,アクティビティモデルは,反応-刺激モデルのような領域に入っていくのではないかと思っている.アクティビティの選択肢構造を同定するのは難しくても変化ならモデル化できるだろう.長期系列データは差分方程式系でそのあたりをターゲットにすべきではないだろうか.

●調査観測技術と計画論

朝倉:A tiger meets a dragon.研究者コミュニティには,理論とデータ,行動とネットワークという2軸がある.個人 vs 集計,行動 vs ネットワークというような論点があるだろう.理論/ネットワーク→行動/データへというのが私の関心の変化です.それに対してドラゴンは行動/理論→ネットワーク/データという動きの中で,Behavior in Netowrksにいろんな研究者は割り当てられる.学際競争と国際競争.学術分野として,respectがないと,社会的発言はrepectされない.国際競争に勝てるような学術分野でなければならない.国際競争に勝てる体質を強化しよう.

交通理論に関するまともな国際会議.ISTTT(50 years),IATBR(25years),TRISTAN(20 years) あたりが相当するように思う.この前香港で開催されたISTTTのトピックスは交通流理論,交通制御,交通現象のダイナミクス,情報提供などがメインで行動モデルに関する研究も加わりつつある.

Foudersが誰かというのを桑原先生が会議でプレゼンテーションで説明.プリゴジン,佐々木綱,ワードロップ,ベックマン,ハーマン,ニューウェルなどのメンバーが創始者.

Daganzoが司会でBeckman,Haniなどが,繰り返し述べたのは温故知新である.もうひとつはデータで検証することが重要である.German Hobby批判は検証されればあたらないだろう.

Urabanspaceの動きをday-to-dayという軸を加える.spaceとtimeを考えることが重要ではないだろうか.ネットワークモデルの議論の出発点は面的な広がりであったが,フローでは面的な表現を捨象して時間に集中したモデル化を行ってきた.ここに行動モデルが加わる.

現象記述モデルがあって,ロジットモデル,均衡配分,待ち行列理論が大きな成果だろう.これかが掛け合わされることで,多様な政策評価が可能になった.そして今,確率,動学化,シミュレーションがキーワードである.どういう要素を確率現象をモデル化するのか,そのことの意味は何か?

森川:需要分析ははたしてデータオリエンテッドな道筋をたどってきたのか?ということを振りかえってみたい.集計モデルの時代は大変データオリエンテッドだった.パーソンで多量のデータを収集・.データに意味を持たせれば,後はその値を「適当」に予測するモデルがあればいい.分担率曲線などはその例.

非集計モデルの出現は,意味の乏しいデータを意味のがあるモデルの同定に使う.ある個人があるっ状況で車を選択したという個別のデータに意味はない.

パネルデータとSPデータの利用.パネルは同一個人の状況依存性や個人性をもたせたモデルを構築できる可能性がある.SPも同様に,同一個人から仮想的なシナリオに対する反応を分析できる.

コンジョイント分析では実験計画法に基づいて行うんだけど,輸入しても属性間のトレードオフをどの程度考えて行動しているのかについて,よくわからないところもある.意思決定の時間タイミングもわからない.スキャンパネルデータはスーパーマーケットの購買データ分析のアプローチで,RPなどでも利用可能.だけど私たちのデータでは状況が変わらない中でパネルでとってやってきている.何ができてきているのか.

離散選択モデルが進化したが,ここのところランダム係数モデルが,データもある,推定法もある.これで終わり?何もおもしろくない.ところが,,交通政策を評価するためには,金森君のアクティビティ配分などあるけれど,でかくなっただけで,今後何したらいいのか.

データの出現,ライフログ,意味性の薄い多量のデータ.非集計ですらトリップ単位で意味をもたせていた.しかしライフログは徹頭徹尾意味がない.脈拍とか,,,データの大量性を生かすならモデルに意味をもたせるか,あるいは,モデルに意味なくてもいいから,ブラックボックスにいれて,ソフトコンピューティングでやっていくという道もある.

プローブデータはだいぶいじったけど,何がわかるようになったのか.というと経路や,詳細な目的地,速度/加速度,漏れのない連続的なトリップがわかる.但し補完的調査が必要.手法オリエンテッド.

毛利:実務で何をやっているかというと需要予測が前提で,教科書で習ってきた長期の未来の予測で,それが仕事である.研究レベルでは現状の記述を精確にする.実務は未来を予測する.ということなので,話がずいぶん違う.変数そのものの不確実性という問題がある.ざっくりとした分析にならざるを得ない.GDPとかのほうが重要.均衡配分とかあるんだけど.B/C,あんなものがなければどうでもいいんだよ.きめればいい.右肩あがりだった,需要予測の問題がなかったんじゃないかと思う.

羽藤:まあ毛利さんの言っていることはわかるんだけど,やっぱり視野が道路だし,長期じゃないでしょうか.プローブが得意としているのは短期の問題だろうと思う.パーキングデポジットやモビリティシェアリングなどのサービスインテグレート,日々の管理である.そういう問題の重要性がクローズアップされてきていて,長期予測というけれど,量の問題なんかはこういう需要減の状況では重要でないし,フローモデルの出番も長期予測の中ではそれほど高くないと思う.問題はこういう技術をやろうとすると人が育たないということ.ORACLEがわかって,統計がわかって,最適化も行動理論もわかっていないとスピード感のある政策評価はできない.でも研究者が賢くなったのか,育っているのか,テーマへの反応性はどうかといわれると厳しい.データ弄っていない連中がしかし賢くなっているのか.そのあたりは森川先生どうですか.

森川:P-DRGSを産学連携で5年間やってきた.結果としてプローブカーをきちんと走らせることができた.台数でマックス3000台を動かした.専用の車積機でやってきたのがタクシー無線に変化した.経路案内を蓄積データで予測型情報提供を可能にした.右左折所要時間,5分単位など,細かな予測を可能にした.ウエブ版,携帯向けの開発を行った.市販のナビと比較して性能はもっともいいという結果を得た(特に到着予想時間が正確).

さらにプローブカーを使いながら市民参加,MM,プローブパーソンなどへ発展,トラックエコルートへの応用.蓄積は重要.課題はナビだが,名古屋地区だけでは難しい.グリーンモビリティ,パーキングデポジット,実装型の研究をやってきた.

これからやりたいことは何かというと,観測から予想を超える,パーソナルモビリティの革新,人の幸せについて考えてみたいと思っている.

毛利:だけど,ETCの1年分データは扱えない.去年の連休と比較したいと思ってもできないというかんじがある.

朝倉:大量のデータをハンドリングできる人を近くに育ててないといけないんだけど,それは方法論としては駄目という評価をしてはいけないし,なんとかしないといけない.

羽藤:でも情報処理学会では評価してくれるけれど,土木学会なんかではあまりデータオリエンテッドな方法論を評価する空気はない.ちょっともっともらしいことを数式でいうほうが歩留まりがいい空気感がないですかね.

谷口:縮退するにあわせなくてもいいのではないか.アジアもあるんだしとは思う.その反面,スピード感がテーマにでてきていて,サンプリングなんかもめちゃめちゃでどんどん分析結果が出てくる.ああいうのはいかがなものかと思うんだけど.急な時代変化に対する行動変化をどうやって表現するのか,ゲリラ的な方法論はないかと思う.

朝倉:交通行動の観測は昆虫採取の道具ができた.でも新しい虫はとれたのか?という問題だろうと思う.ラグランジュ型とオイラー型がある.観測なくして理論ナシ,理論なくして観測ナシだが,,,大量で詳細なデータを前提とした新しい理論モデルの開発,高度なデータ処理技術の評価が重要.なぜならChoice Architectのスキルとして必要だろうと思う.それなくしてChoice Architectもへったくれもない.

何がやりたいか,何をやるべきかというと,21世紀的価値観と研究課題,安全と共生の都市空間デザインが重要ではないだろうか.安全,効率,環境.リスクを考えたい.危険物輸送や自然災害を想定した避難行動.モビリティはどうやって計るべきかというようなテーマがもおもしろいだろう.PP+SPなどがいいのではいかと思っている.

柏谷:この分野は今まで,クロスセクション分析が多くて,時系列分析が弱かったと思う.今のままでは交通は20年後の答えが出せないんじゃないか.だけどそもそも考えてみると,都市と交通の関係はselfselection問題のような話はどうなるのかということに思い当たる.都市を調べるのか,交通を調べるのかという問題があって,日本は戦災でやられたが,英国はレガシーためこんで分析している.でも日本も時系列データがセンサスだと結構たまってきてもいるし,そろそろ違うのではないか.マクロな政策.交通は派生需要だが,本源的な価値があるのではないか.

羽藤:いいたいことはすごく伝わる.日本だって1968年からPTを蓄積してきた.でも1968年のPTで配分計算を今のロジックでやって,環境が交通を決めているのか,交通から環境が選択されているのか.というような問題を理論的に検証するという空気がない.このあたりを北村先生は強く指摘していたと思う.移動空間の再生のような問題は街路の問題でもあるし,深いレベルで立体的に移動について考えられえていない.だからおもしろいんじゃないかって思ってるんだけど.

森川:交通は派生需要っていつも講義で教えているんだけどそれは本当だろうか.殆どの移動は派生需要というのは卑下しすぎではないかとわれながら思う.どこに立地するのか,どこに移動するのかについては,殆どよく考えてみればアクセシビリティで決まっている.と考えると都市をかたちづくりもっとも重要なものは移動に違いない.そのことこそをもっと科学的にデータで迫っていくべきだろう.

谷口:人の幸せって,どうなったら幸せかというのを教えてあげたい.日本人は何が幸せかわかっていないのではないか.

森川:幸せ誘導しようとするのはfeel good stateなんだけど,,

毛利:幸せはアマルティ・センだと思うけれど,そもそも計画者は他人とか地域の幸せを考えて計画をたてているはずだが,たてられる人がいなくなっている.低炭素,コンパクトシティとか言葉ばかりで,それがいい都市というのは本当か.研究と政策とのギャップがある.政策の評価をしても褒めてくれない.

森川:某政令指定都市のマニュフェストを作った.自分の研究成果もつかったけど,そういう研究者は今は少ないんだろうか.どうなんだろう.

羽藤:御用学者として抽象化した議論は可能だろうが,この場所でどうするという話については,現実と向き合うということが必要だろう.根拠なくイデオロギーを叫んだところで,どうにもならないし,精確な議論ができないといけない.数値的根拠は必要だと思うし,哲学も必要.そういう一人の頭の中で,世界を知る,全体の関係性を知るというプロセスが必要だと思う.でもそういう人,プランナーでありデザイナーであり研究者という人を育てないといけない.

朝倉:いい政策,いい計画をつくってもインセンティブがないんじゃないか.政策をつくる人が幸せになる.というのがモチベーションだろう.効用の理論を,線形に変化するなら罪はないと思うが,実際には,,

森川:幸せは非線形ではないか.たとえば2分の短縮なんか個人に何の意味があるのか?個人的にはなんの価値もない.でもΣすれば意味は出てくる.だけど実際には閾値問題などがあることは間違いない.非線形だということ.でもめんどうだから線形にする.計画のわかりやすさでやってきたが,非線形に踏み込まないといけないと思う.

毛利:幸せは格差の問題.格差の問題に日本はこれからどう向き合っていくかということになってくる.

羽藤:効率性から公平性への大転換が起こりつつある.サルコジのパリ計画もそうだけど,スティグリッツやセンを交えた議論が行われていてある一定の答えを,GDPだけではない経済評価,具体的には潜在能力アプローチのようなことですが,行われている.既存の費用便益的アプローチであればお得感の再配分を認知研究の中で盛り上げていくことが問題で,そのあたりに答えがあるのではないだろうか.

日々野:政策研究大学院にいると,研究者が政策研究に入ってくというのはどういうことか,比較分析的に行われていない.実務的な細かい話とマクロな話をどう仕分けするか.国と研究者の間の対話がない.

朝倉:比較の仕方にオリジナリティがあるかどうかが重要.ただの事例研究では難しい.

森川:統計のとき100人の学生がいて,TAがアンケート全部束ねてもってきたらアホ,平均値,分散を出すのが重要.一生のライフログ生データは10TBで収まる.しかし閲覧性が重要.新種の発見なのか,昆虫が病気なのか.観測データを越えたところ,そういう集約のしかた,分析が必要.現在の枠を超えたものを示していきたい.

朝倉:観測とかモデルであっても,立場を明確にすることが重要である.それは,ボトムアップ的観測なのか,俯瞰的なものなのかを示したい

森川:オイラー型をちゃんとすることを考えたい.ETCを含めて,だんだんデータが出なくなる恐れがある.早いところ制度設計をしないといけない.変化が起こっているとしたら何かを考えたい.

毛利:実務で起こっていることを考えて,研究者は研究をやってほしい.ぜんぜんデータとは違うことを話したような気もしているが,やっぱり現場のことを考えてモデルやデータを議論することは重要だと思う.

羽藤(まとめ):いろいろ話してきましたが,僕自身は前回上田さんが言っていたこと,飲み会会場に行ってしまったみたいですけど(笑),時間を経ても変わらないこと,普通に眺めていては予見できないことを理論が,あるいはデータの構造理解によってどこまで提示できるかが重要ではないかと思っています.徹頭徹尾,そういう研究をしたいと思っている.そのことには研究サイドの人間は異論はないと思っている.

では問題は何か.現場サイドと研究サイドの間にものすごい断絶があるということではないか.で,その断絶の理由を考えてみることにあるのではないかと思います.事例であれ,数理であれ,政策論を展開するとき立体的な理解が必要となることは間違いありません.だからそいう立体的な理解をどんどん徹底的に進めていくしかない.

そしてこの問題は,柏谷先生がくしくも都市をどう理解するかが重要だと,そのことにつながっていくような気がしています.単に数理的に時間と空間を分解してその特性を数理的に解析していくスキルは重要ですが,いったん分解した変数を再構成し,何を理解しようとするのか,物理でいえばくりこみ論のような話ですが,私たちはモデル化すべき時間と空間のスケール,あるいは各々のスケールどうしの関係性についてもっとセンシティブであるべきなのかなと思いました.

計測技術ということにこの科研は焦点をあてている.行動の記録については,エスノグラフィなども含めてかなりのデータをフュージョンする技術については一定の成果を出していきたいと考えている.その一方で空間情報をスケールごとにどのように取り扱い,総体としての都市の問題を扱うべきかについては,まだ多くの課題を残している.このあたりについては具体的な政策,あるいはサービスを想定していく中で考えていきたいと思っている.