●山本:行動モデルの最新動向のレビュー -第91回TRBのセッションを中心に-

行動モデルをopen-formとclosed-formの差異を考慮して分類し,相関,誤差項,分散をを考慮しているか,また推定手法の特徴からGEV.MXL,MNP,HEVモデルについて解説を行った.Bhat(2011)ではMNPを対象としたMACML推定を開発し,これは時間価値の異質性を考慮する際,正規分布を非対称正規分布として扱うことで有効な推定手法となる.closedformの誤差項,確率項の分散,系数の識別は難しく,モデルの性質を優れたものにするならば正規分布が有効である.

福田:最近の研究対象は歩行者やシェアリング,避難,信頼性,料金政策などをしている。テーマ:データマイニング,ベイズ,状態空間モデル→データのMassiveさ,相互依存関係。計量経済モデルでの構造推定では動学的最適化やゲーム的相互依存に注目.政策に依存しないパラメータを考えるべきという考えがある(Lucas批判)動学的最適化:DP(逐次的リンク選択の積み重ね)相互作用的状況:出発時刻選択で混雑の内生性を考慮(松村杏子2012卒論)

山本:世界的にはモデルの推定の仕方は進んでいる.また非補償型の構造を保証型の拡張として考える研究も行われている.日本ではデータの取り方に対してモデルを作りかた,選択肢集合の作り方を考えるべき.

羽藤:日本だとデータはあるので理論的な研究は行われるが実務になっていない.

倉内:パラメータを個人属性で構造化した場合はデータの誤差も含んでいる?

山本:データの誤差か個人差は識別できないが,選択確率に対する影響を考える場合はその差に問題はない.

山本:構造推定のパラメータは構造そのものを考えるということか?

福田:パラメータを考える.彼らは何が普遍的で何が状態依存のパラメータかはあまり気にしてない.

朝倉:政策のための行動モデルか,モデルのためのモデルかを明らかにして議論するのが良い.route choice model without choiceのrouteには固有のファクターがある気がする.それを抜いたchoice model without choiceとはありえるのか?混雑は相互依存性の一つの反映の仕方.相手の効用を自分の効用関数に入れるモデルと,もっとmassiveな混雑が自分に反映される相互依存性の関係性が面白い.

羽藤:choice model without choiceは,家電や加速度からの手段識別のように,空間データがなくても密度や期待値のパターン識別は出来る気がしている.また,個人の作用を積み上げるとManyToManyの結果になるのかという話がある.

原:choice model without choiceはある気がする.無意識な選択をモデルに当てはめるということ.昔は選択モデルの精緻化を求め,今は構造の切り口を考えるようになっている.

柳沼:推定はどんどん難化している.また,大量のデータをどう推定するか.

羽藤:多データからモデルを作る手法論がない.政策課題とモデルの整理すべき.

鄭:集団の平均効用関数を入れるのは面白い.何を目的とするかで個人を区別するかどうかを考える.

●斉藤:共有型交通システムの動学的特性とその制御手法の提案

シェアリングという共有型の交通システムにおいて,需要者の意思決定に,時間選好を考慮したwithin-dayの効用関数と,2種類の学習アルゴリズムを考慮したday-to-dayのモデルを仮定する.これを異なる専攻を持つ複数ODのマッチングを考慮した数値配分を行い,結果に対しポテンシャルゲームを導入してインセンティブ制御を行った.

朝倉:何を共有する問題設定かをクリアにした方が良い。ここでは移動する車の共有だが,送迎も共有の一種と考えられる。共有をどの側面で捉えているか。プレーヤー間の相談は可能なのか。学習プロセスやシステムの有効性も相談可能かどうかで全く変わるため重要な点. 2つの学習アルゴリズムは共有やシェアリングに固有の学習か、それとも一般的な学習か。シェアリングで特に効いてくるという話だとより面白い。
シェアリング固有の効用とは何なのか。これがクリアになればシェアリングの行為を学習を通じて深く理解できるのではないか。制御変数はインセンティブ課金である。購入台数やポート立地など他の変数の中で課金を選択したことを踏まえ,課金固有のメカニズムを示せるとより面白い。
沢山のファクターが発表中に含まれ、この発表の切り口がシェア・共有。その共有に関連して全体で説明変数などが置かれると面白いように感じる。

斉藤:送迎や一緒に行動することもある意味シェアだと考える。シェアは個人や組織にとって、駐車場送料や移動手段の多様化のメリットがあると考えた。相談はできない仮定。相談の可否は大きく影響するとは考えていて、相手の効用が自分の効用関数に含まれるようにモデルが変わることも考えられる.学習について,今回は一般的な学習アルゴリズムを挙げた。重要なのは機会損失の問題で、リグレットマッチングでこれを考えている。 課金については、一日毎の細かい対応が可能となる。台数は多ければうまくいくが、オペレーションコストの問題があり、マネジメントの考慮も必要だろう。

羽藤:交通システムとしてのシェアリングとネットワークモデルとの関連が出てくるように思う。制御変数については、初期投資が必要か否かのサービスの性質によって重要とすべき変数が異なる。そうしたアプローチが面白い。

朝倉:供給側の問題や、供給,需要の協調や学習を論じることができて面白い。

斉藤:多数の車の導入はコストがかかるので需要を徐々に増やせばうまいシステムが作れるのでは。

朝倉:利用者自身がシステムに関わっていくという捉え方もシェアではできる。

斉藤:供給側が動かし方を決める方法や、供給側から需要側のインセンティブで動かしてもらうような方法もある。

佐々木:相談できるかは非常に重要で、待っている人に対して情報の提供方法次第で解決できる場合もあるのではないか。インセンティブのデザインは面白い。

福田:進化経済学で、新しい技術の導入に伴う共進化の話との関連もありそう。

●鄭:地域における場とアイデンティティ(過疎中山間地域におけるおつきあい行動)

過疎中山間地域におけるおつきあいと地域・地域住民に関する愛着を観測し,その行動原理としてアイデンティティの働きを明確にする.日南町でのアンケート調査から,Akerlofのモデルを参考にして共分散構造モデルを構築.職業や居住形態,村タイプ,活動タイプなどとアイデンティティの関係を推定した.

羽藤:高齢化が進んだりすると生活行動の中からworkが抜け落ちていく,出かける義務がない状態で何が行動原理となるのかという問題に可能性を感じた.都市だと場を数え上げてアプローチするやり方は難しい.都市部で適用する際にどういうやり方や注意点があるか?なんとなく愛着というとその先にどういう地域像を実現したいのか,制度変数をどう語ろうとしているのかがわかりにくい.

鄭:都市での適用はデータマイニングを使えばできると思うが,それで愛着やアイデンティティを本当に説明できるのかという問題がある.過疎地域というのは社会関係資本というのが非常に高くて,アンケートを依頼してもすぐ答えが来るしすごく協力的.公共施設もほぼ公民館だけだが,そこが活動の中心となっているので,そういう施設を整備をするという方向性はある.ただ地元ではもう公共施設は作らない方針なのでそこをどう支援するかが重要.

羽藤:場のあり方や愛着などの計測可能性が難しい.自由回答では考えられる.

鄭:今回は個人をベースとしたが,都市部ではもう少し大きい規模も考えられる.

倉内:愛着とアイデンティティの関係性がわからない.

鄭:愛着ができていくメカニズムにアイデンティティが関わっていると考えている.個人のどういう属性が愛着に関わっているのかを分析しているが,他の場所では違った結果になると思いうし,個人属性や活動の場は複数あるので,個人が複数のアイデンティティを持てるというような解釈をしている.

倉内:もっと根本的に地域で愛着を高めるような活動をしようとかそういうことだと思ったんですが,アイデンティティが複数あるとするとよくわからない.

鄭:活動参加によるアイデンティティ向上が地域の愛着を高めるという考え方.

原:長期居住をする中で活動参加機会が多くあったからアイデンティティが強化されて愛着が高まって長く住むというような,長期居住ということが結果にも要因にもなっているように思う.アイデンティティが効用関数に影響を与えるとは,大雑把に言うとここに住むのが好きだから住むということのように思うが,そこにアイデンティティというものが入ってきたときに単純に他の損得の変数との足し算でなく,効用関数の構造自体が変わると思う.

鄭:例えば私がピアスをあけたとして厳しい家族内では効用は下がる.ピアスをあけた友達が多い中ではすごく幸せ,というように集団との関係性が重要.

朝倉:愛着を直接観測するのではなく,ダイアリー調査のようなものからその人が地域のことを好きかを推定していくようなことも考えられる.

羽藤:行動から攻めると,条件が厳しい人が無理やりにでも活動に参加しているのが拾えるかもしれない.そこで愛着というのが見えてくるのでは.

朝倉:どういう人の観測が適切かという問題はある.

羽藤:動けなくなる直前の人の所で感度が高くなると思う.無理して婆ちゃんを祭りに連れて行く,もうやめときゃいいのにみたいな人が活動に参加するなど.調査方法そのものも研究として面白いし、観測は重要だろう。

●日下部:交通系ICカードデータによる行動データマイニング-データ融合を見据えて-

交通系ICカードデータと,PTデータを組み合わせてカードデータの長所を生かした行動解釈手法の構築を目指した.データを可視化しての立地特性の分析,乗車列車の推定,洗剤クラス推定による長期的行動パターンの解釈を行った.また改札通過時刻という共通項を用いてPTデータとフュージョンさせ,交通目的の推定を行った.

佐々木:これから発展性があるテーマである.どう考えても調査系より観測器系データのほうが良い.調査系でパターンのわからない人がいるが,それは分析者のせいで,行動者はある規則や合理性,規範に従っているはず.つまり調査系データを取るときに,調査設計段階で観測できる現象を限定してしまっているのでは.

日下部:この研究をやっているモチベーションは,モデルがモデラーの意向で組んでいるだけで面白くないこと.データを分析して現象を見つけ出すほうが面白い.

佐々木:構造変化についてどう考えているか.

日下部:量と質があるが,量はデータとして出るが,質は潜在クラスで出るのかなあという考えだったが,難しい.

佐々木:今あるデータの融合という話になると思うが.具体的にはどういう風にやっていこうと考えているか.あるいはどういうデータがほしいと考えているか.

日下部:消極的な理由としてはデータの有無があるが,知りたいことに合わせたデータの取り方がある.構造変化や政策影響を見たいのであれば,ある程度長期的に取れるデータが必要ではないかと考えている.

柳沼:可視化してもわからぬものはわからぬ.ここにモデルの意味があるのでは.

日下部:可視化のメリットは,データの次元をモデルほど落とさなくていいこと.そこから言えることは多いと考える.だが,あくまでデータの組み合わせではある.

羽藤:データ性質の比較がわかりやすくできている.アプリオリに条件を設定するのではなく,データから抽出できるというと思う.シミュレーションとかも含めていろいろできると思うが,手法論としてどういう構想があるのか.

原:潜在クラスが多いから解釈が難しいのではなくて,政策変数がないから解釈が難しいのでは.パーソントリップのデータをICカードデータを用いて,他の日のPTデータを推定・生成するとかもできそうだが.

日下部:PTからPTを作ることになり難しい.