第2回復興デザイン研究会の報告
「土砂災害対策と森林整備に着目した地域活性化の取り組みについて -富士山の里山構想を事例として-」
臼杵 伸浩(復建調査設計株式会社)富士山の山麓の災害に対する対応について、森林整備に着目した取組みを行っている立場から話題提供いただきました。森林整備については、特に間伐材について、利益を出すことができないという課題を抱えており、林の所有者が管理できず森林が荒廃していってしまっている現状を説明いただきました。このような状況の中、林を財産として見なし、社会的に上手く回っていくシステム整備への取組みについて以下の3点についてお話いただきました。
①山噴火やスラッシュ雪崩などへの対策はどのようにすべきか?
現在は緊急対応としてのダム整備と徐石の2点しか取り組まれていない。平時からの取組み、例えば間伐が重要であるが、間伐材で利益が見込めない中、手入れが進まない現状にある。また、間伐材を運搬するための道路整備も重要であるが、こちらも予算の確保が困難な状況にある。この際に、林の地権者と森林組合、行政が連携したシステムを構築することを試みている。
②大な範囲の樹林の中で手入れの遅れている箇所はどこか?
現状では、荒廃林の把握も難しい状況がある中、レーザーを使った樹高区分図の作成に取組んでおり、この地図を使って災害対策の必要な地点などの検証を行うことができる。
③林をベースとした経済活動の仕組みづくりの可能性は?
森林を財産として、所有者へ利益を還元する仕組みを構築したい。当初は木質バイオマス発電(森林系バイオマスと廃棄物系木質バイオマス)を検討したが、収集・輸送コストがかさむのがネックである。一方、富士山山麓に散在している畜産農家が使っているおがくずは輸入していることが分かり、間伐材をおがくずにして農家に渡すことで、防災対策、森林所有者への利益の還元もまわっていく仕組みができるのではないかと考えている。
質疑応答では、山の山頂、麓の集落、その下の海までトータルにとらえた計画の可能性や、非常時のみならず平時からリスクに向き合った生活のあり方に基づいた地域計画の必要性について議論が行われました。
「宮古市スマートコミュニティ構築について」
武藤 良樹(アジア航測株式会社)岩手県宮古市(人口6万人)において取り組んでいるスマートコミュニティ構築の取組みについてお話いただきました。産業振興、雇用創出、防災性の向上、環境にやさしい地域社会を軸に、主に以下のテーマでご説明いただきました。
①再生可能エネルギー(水素エネルギー)の地産地消のシステム構築
②太陽光発電、小水力発電(上水道を利用した発電)
③エネルギーマネジメントシステムの構築
エネルギーを無駄なく使うため、HEMS BEMSなどによる電気のマネジメントに取り組んでいる。漁協は冷蔵庫に莫大なエネルギーを使うため、より安い電力を使えるようにしたい。
④植物工場の運営
無菌のパプリカを機内食用に出荷する取組み。運送コスト削減のため、直行バスの荷台に入れてもらうなど工夫している。
⑤市民教育の場の開催
小学生を対象としたエネルギー教育を行っている。
⑥新たな地域経営モデルの構築
震災直後は役所も疲弊している中、民間が主体となって事業を進め、行政はそのサポート役となる官民が連携した体制をとった。また、宮古市で活動する22団体を集め、役所の中に復興室を設置することで連携をとってやっている。
質疑応答では、主に以下の点について議論が行われました。
・行政単位について
大合併で大規模になったことによる災害時のメリット(連携しやすい)はある。日常生活圏域、自然領域など多様な圏域があるが、風土的に一体性を持っているエリアで単位を構築しておいて、その先は連携をしていくことを意識していかないといけないのではないか。200程度の集落の超分散のような形もあり得るのではないか。
・事業が成立しない、取り残されたエリアについて
税収下がって、将来の自治体の経営を考えると、コンパクトにしていかなければならない状況にはある。しかし取り残されたエリアまで全体を見通す立場の人間が必要だろう。
・事業の持続可能性について
将来的には宮古の人がそこで生計を立てられるように事業をシフトしていかなければならないと考えている。民間だから担保性がないかという訳ではない。土地になじんでいる形に進化していくことが重要である。大きな目標にしながら生業、地域の自律の仕方などが設計できていると素晴らしいのではないか。
また、利益が小さくても、細々と続ける事業は重要だろう。
「広島土砂災害についての緊急報告」
山根 啓典(復建調査設計株式会社)2014年8月の広島土砂災害について、災害直後はボランティアとして現地に入り調査を行っている山根氏より緊急報告いただきました。
①宅地開発を許可した行政への批判がおこっているが、今回の被災地は古くから家屋が建っているエリアである。
②復旧の遅れの原因として、水が止まらないこと、道路が細いことによる大型機器が入れないことが挙げられる。
③避難の経路として、現状では縦方向の道で逃げるしかないが、横方向に逃げられるとよいのではないか。
質疑応答では、主に以下の点について議論が行われました。
・これまでの災害状況
八木はこれまでに何度も被害にあっている一方、緑井は、江戸時代に遡っても土砂崩れは起こっていない状況にあった。
・縦道と横道について、生活動線や車動線などとの関連
学校、集会所、JRのいずれも縦動線を誘因しており、横動線が脆弱であった。
・古い家屋や神社が残っていることについて
神社は比較的残っている印象はあったが、結果的論という可能性も高い。実際には、古い家屋も隣接する鉄筋コンクリートの建物にあたった土砂にあたって倒壊するなどの現象もおこっている。土砂がどう流れるか想定は難しいのではないか。