U30都市計画-都市設計提案競技2014
発表審査・講評
平成26年9月19日、道後温泉地区(どうごや、道後温泉本館前、椿の湯前、道後商店街入口)にて講演会、パネルセッションを行い、9月20日、愛媛大学(南加ホール、校友会館)にて、内藤廣氏による基調講演、最終プレゼンテーション、最終審査会を行いました。
9月19日プログラム1
パネルセッション
道後温泉地区(どうごや、道後温泉本館前、椿の湯前、道後商店街入口)にて、パネルセッションを行いました。
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「都市付温泉から温泉付都市へ」 |
「ほどきゆわえる」 |
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「道後の家道」 |
「“まちの湯”道後の通い路」 |
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「道後六物語」 |
「忘れられた風景の「環」を縫う」 |
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「道後かるた」 |
「道後かるた」 |
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9月20日プログラム2
パネルプレゼンテーション
愛媛大学校友会館にて、審査員や一般聴講者向けにパネルプレゼンテーションを行いました。
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「道後の家道」 |
「忘れられた風景の「環」を縫う」 |
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「“まちの湯”道後の通い路」 |
「道後六物語」 |
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「ほどきゆわえる」 |
「道後かるた」 |
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「都市付温泉から温泉付都市へ」 |
「都市付温泉から温泉付都市へ」 |
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U30都市計画-都市設計提案競技2014
審査結果
【最優秀賞】道後六物語
チーム名:[1407]早稲田大学
メンバー:内田将大、茅根哲郎、加藤真梨菜、吉江俊、山田周、石川大樹、野原かなえ、福澤香織
【松山市長賞】忘れられた風景の「環」を縫う
チーム名:[1424]沼野井諭建築設計事務所+東京大学
メンバー:沼野井諭、本間百合
【内藤賞】道後かるた
チーム名:[1423]
メンバー:吉田涼子、田頭亜里、魚本大地
【青木賞】都市付温泉から温泉付都市へ
チーム名:[1412]東京大学
メンバー:芝原貴史、森本順子、福田崚、中島健太郎、陳莉莎
【後藤賞】道後の家道
チーム名:[1419]東京大学+東京芸術大学+名古屋大学+フリー
メンバー:国枝歓、中島弘貴、前川智哉、矢野槙一、高柳誠也、戸石晃史、高取千佳
【窪田賞 藤田賞】ほどきゆわえる
チーム名:[1420]京都大学
メンバー:牧田裕介、大川雄三、篠崎健、一宮紘平、水牧達志、諏訪淑也、水野裕介、三輪潤平、水野剛志
【道後温泉賞】“まちの湯”道後の通い路
チーム名:[1414]愛媛大学+東京大学
メンバー:安田真菜、大山雄己、畔元真弥、小川直史、亀田真美、松本優花、山口伶、山本祥大
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U30都市計画-都市設計提案競技2014
講評
【山口先生】
非常にハイレベルな案で、私自身が勉強になった設計競技だった。提案全体のビジョンも個性があって、解き方もオリジナリティがあり、バラエティに富んでいて非常によかったと思う。また現実的な案も多く、道後にとって今後の道後のあり方や実行するプロジェクトの参考になると思った。
[ たたむ ]
課題説明会で、道後の歴史についてレクチャーさせてもらったときに、道後の歴史を調べたが、道後温泉本館をつくった時の伊佐庭如矢の言葉から、彼が目指したのは他の地域が真似できない日本一の建築だったことを知った。それが実際に道後の「町」を作ってきた。今回の提案についても、日本で唯一のものであったり、日本一のまちづくりプランにするといったことを、どこまで皆さんが目指されたのか。改めて自問自答されるといいのかなと思う。
提案の中で気になった点としては、様々なアクションを重ねるというプランが多かったけれども、実際にそれぞれのアクションごとの相乗効果をどこまで想定したかというところ。パネルもきれいに表現されているし、総体としての町の雰囲気はなんとなく想像はできるが、相乗効果をシステム論的に捉えていく考え方があってもよかったのかなと思った。
もうひとつ、道後では、旅館組合や商店街組合など、関係する主体の思いはそれぞれで、必ずしも同じ方向を向いていないという状況がある。それを道後という地域でひとつにまとめようとすることは実際「重い」問題だ。その状況を動かすためには、ステークホルダーを一つの方向に向けるような「強い」提案が求められるだろうし、その提案がロジカルに解けていることが必要だと思う。皆さんの優しい性格からくるのか、提案の柔らかさが少しだけ気になった。
最後に、空間と空間の相乗効果に加えて、実際にプロジェクトを仕掛けていく際には、人と人の相乗効果を考えていかなくてはいけないところがある。人はそれぞれ異なる考えで動く。こうした主体と主体がどう結びついていくのか、というところの掘り下げがまだちょっと足りなかったかなと感じた。それぞれのアクションにそれぞれの主体を想定してはいるが、その相乗効果として、つまり町としてどういう主体を育てていくのか、といったところをもう少し突っ込んで欲しかったように思う。
【羽藤先生 】
今回はU-30の都市計画設計提案競技ということだったが、日本ではなかなか都市計画に関する提案競技は少なく、このような課題に全国各地から様々な若手の方に参加していただいて、道後にとっても、道後を考えるうえで貴重な討議が展開できたと思う。
【藤田先生 】
ポスターを見ても、発表を見ても大変な労力をつぎ込まれたということが良くわかり、まずはそこに敬意を表したい。全体を通して、本館に頼らないまちづくりや冠山の利用など、共通する問題意識に対してそれぞれ色々な回答が出てきていて大変おもしろかった。
[ たたむ ]
最初図面を見たときに、背後に建っている旅館群の低層部を改修するような計画があると思っていたので、それがなかったことが少々意外であった。
今後予定されている本館の改修という観点から意見を述べる。本館の改修期間に対する解決策が出ていたが、その中でも改修を積極的に見せる案がいくつかあった。実際、現在そのような需要は高まっており、改修工事をすると見学希望者がたくさん来るため、改修による閉館と事態を逆手にとって見せようという案は大変素晴らしいと思う。本館について、段階的に改修する案と、いっきに改修する案があったが、現実的なことを考えるといっきに改修する方があり得ると思った。但し、実際問題としては覆屋をかける際に職人の作業場を歩道の方に張り出して、さらに見学者の通路を確保となると相当車道に出てこなければいけないとか、周りとの関係が重要になってくるので、そこも解いていかなくてはいけないことだと思うが、これをきっかけにして積極的に対応しようという意味でとても好意を持った。
本館を移築する計画として「都市付温泉から温泉付都市へ」という大胆な提案があったが、ひとつの解決策ではあり、おもしろいと思った。但し、折角移築という大胆な提案をするのであればそれがもっとよく見えるような表現をすると、より効果的であったと思う。
最後に、本館にとどまらず様々な建物を改修して、その改修した材料を転用していくとか、空き地も転用していくという考え方を示した「ほどきゆわえる」というのは工法的に考えても非常に面白い提案だと思った。とてもいい提案がばかりであると思ったが、藤田賞は「ほどきゆわえる」に差し上げたい。
【牧田裕介】
今回、都市のスケールから建築のスケールまで横断して、チーム9人という大人数で考えていきました。一番難しいと感じたのは、どこに重心を置いて設計をしていくかという点です。コンセプトから入ると、なし崩れになっていってしまい、具体的な調査から入るほうがいいのかなど悩みました。建築を学んでいますが、長期間コンペに取り組むことで、建築のスケールを超えて、横断的に考える体験は、個人としてもチームとしても、面白い経験になったということで、本当にありがたいことである。
【窪田先生】
身近な学生がチャレンジしていたので、傍目で見ていて、いかに大変かを感じていた。
さらに「風景づくり夏の学校」が、7月26日から開校して、今日の閉校のこの日まで、みんなが同じ学校で学んでいたことを強く認識した。
[ たたむ ]
市長さん、青木さんとは初めてお会いしたが、他の先生方とは普段から一緒に仕事させていただいており、あるいは勝手に先生の書いた論文や作品を読ませて頂いて、心的には近いところにいらっしゃる先生方ばかりだったが、私の評価と先生方の評価が全く違っていて驚いている。だからコンペというのはおもしろい。審査員にさせてもらって非常に学ぶことができた。
先生方の評価がどのように違ったかというと、今回は<提案いただいた作品は>大きく2つに分かれていたと思う。ひとつはいくつもいくつも丁寧に風景をつくりあげながら、松山の全体あるいは道後の全体をつくり上げていきましょうというタイプのもの。もうひとつは一か八か的にこれでどうですかというのをポーンと出してみるというタイプがあったと思う。細かく分けるとフィジカルプランナーの方に寄っているものと、いわゆるコミュニティデザイナー的な提案の2軸で4象限くらいのタイプがあるなというイメージで私は捉えていた。
私自身はもちろんコミュニティデザインはすごく重要で、内藤さんの基調講演にもあったが、その町が活き活きしていなければ意味が無いと思っているので、ピカピカとした空間が、今までのつながりを消してしまうことに対して不安を覚えている。だからこそフィジカルプランナーは気をつけなくてはいけないと思っている。
たくさんのストーリーをつなげていく提案は間違いがないし、やったほうがいいに決まっている。でももしかしたら、その辺のことは町の人たちもよく考えていて、できるものはもうやっているし、できないものは様々な理由があってできないことがある。私は、コンペであるからこそ、一か八か系のフィジカルプランを基本的に評価させてもらった。
なので、窪田賞は「ほどきゆわえる」である。
このプランは、まさかそこにもう一個つくりますかというような、普通は手が掛けられないところを考えたうえで、でもそれが今までの道後の流れから、新しい起源を生み出す可能性があることに私は非常に説得された。
ただ、むしろ講評の場では、この案のイマイチなところをはっきりと伝えたいと思う。大きく2つくらい。これは他のチームの方にも共通していて、絵はとにかく上手だが、この視点場はないだろうというところから描いている。プランナーとして、こういう意図を伝えたいということはわかるが、本当にこういう風に見えている人はいない。私達は地べたを歩くわけで、地べたから両方とも見えてきたときに、どう見えるかという視点できちんと設計、提案していったほうがいいと思った。それは他のチームもそうで、「これどっから見ているの?」というものは、絵としては美しくても、人の心に残らない風景は、提案してもあまり意味がないのではないかというのが一点目である。
2点目は動線の空間について。駐車場を遠くに置くという価値観はありだと思う。冠山にもっと重要なものがあるから、駐車場は外に置きたい、それはわかるが、だったら駐車場と本館やお湯までの動線に、どれだけ楽しい空間がつくれるかが、この提案の肝だったと思う。まずはここを整備するけど、それによって街が全体としてよくなっていって、本館とか冠山が道後の方々にとっての財産を生み出していくというところまで話がつながったと思う。考え方としても、私自身が学ばせてもらったのは、本館のように大切なものを守るためには、もうひとつの仮の敷地が必要だということ。これは講評の中で青木さんがおっしゃっていたことだが、伊勢神宮の式年遷宮のように代替してそこを乗り越えて、まただんだん消えていくもの。それを方法論とすると、既存のものをどう変えていくのかという論理は、これからの市街地の方法論としてあり得ると思う。だから何か違うところを探してつながり、この場合は資源だが、つながりを持ちながらも、それをうまく消していくことで、冠山の場所性が上がっていくことが方法論化すると、コンペをやった意味がでてくる。
最初にも言ったが、このコンペの一番の目的は道後に還元することだけど、それだけではなく、アーバンデザインの方法論をみんなで共有するための学校なので、そこまで考えてもらえるとますますよかったと思う。
【牧田裕介 】
視点の話に関しては、今都市のエッジとなっているコンクリートの斜面に対して抵抗感を感じていて、あの斜面と本館がどうつながるのかを一番示したいという意図があった。視点の高さに関しては人間的な目線で見た方がリアリティがあったのかなと感じている。本館から町の全体へ広がっていくようなパースという意識も頭の中にあったからかなと思う。駐車場の話は言われた通りだと思っていて、ちょっと反省会をして考えていきたい。
【羽藤先生】
反省会を開くということで、非常にいいコメントだったと思う。
ちょっと若い世代の方から講評が続いているが、遠藤副市長の方から市長賞を選ばれたので、この辺についてもコメントをもいただきたい。
【遠藤副市長】
今回の提案は、有意義で聞きながらおもしろいなと思った。
この道後温泉の改修というのは、松山市にとっても本当に大変なことで、改修の期間どうしようかとか、マイナス的なことを考えてしまっていたが、逆にこんなチャンスはないと思えばいい道後がつくれるな、それによって松山市は発展するなと思うと、逆になにかやってみようという思いが湧いてきた。今日いろんな提案を聞いて、もっと早く聞きたかったなというのが本音で、大変面白い提案をいただいた。
[ たたむ ]
我々はどうしても現実的で、実現できるかどうかという視点が先に立つ。そういった中で現実的でない部分もあったが、ユニークだった。
市長賞は市長の思いで選ばせてもらった。すごいものを市長は選んだなと思っているが、ひとつの大きなポイントは冠山の寄席で、これが市長にとってものすごいインパクトがあった。私もあの冠山を色んな形で使えるというのはおもしろいと思っているので、そこが大きなポイントになった。私の感想も含めて全体の印象を言うと、この提案は冠山や本館とか上人坂とか道後駅周辺、それぞれを拠点付けしてその拠点をそなえていくと広がりが増えていくという提案だと感じた。冠山のことは個人的にもおもしろいなと思うし、もうひとつ車を町の中に入れない、道後の中に入れないその中は人が歩いて回遊するというような提案かと思うが、その点も環境面でも特徴的でよかったと思う。
【沼野井諭】
大胆な案と言われると少し気恥ずかしい気がします。私自身は普段建築設計の仕事をしていてプレゼンをする機会があるが、今回のコンペのモチベーションとしては、現実的なことを実現させることも大切だと思うが、デザイナーの役割は現実的なことを実現することをさらに超えてその町に住む人や町に関わる人にどのような夢を与えられるかだと思っている。そのような思いがあったので冠山を再生するだとか、道を一方通行にするとかゴンドラリフトをつくるとか、あえてバカっぽい提案にすることで、わかりやすさが伝えられればなと考えていた。
【羽藤先生】
この設計競技は若手の方に、できればその後道後に入っていただいてというのもあるので、非常にいい発表をしてくれていいと思った。
【遠藤副市長】
松山にぜひきてほしい。
【後藤先生】
先ほどU-30はやさしい性格だと言われていたことに対して、僕もそう感じている。
U-40は団塊ジュニアなので、おやじ達が学生運動で暴れていた世代なので、理屈っぽくて子供もつくらずに少子高齢化を招いている元凶だと言うと言い過ぎだが、U-30は団塊世代の次の僕らの子供たちの世代で、ちょっと線が細い。自分たちで自覚しながら行動しないと上に乗っかっているU-40に抑えつけられるところがある。
[ たたむ ]
特に修士2年の人たちは「1.57ショック世代」である。君たちが生まれたときは、その前の丙午の出生率を下回った世代で線が細い。一昨日に応募作品がPDFで送られてきて、プリントアウトしたときに、家のプリンター壊れちゃったのかなと思うほどみんな色味も同じ。なんとなく表現が弱々しくて似ている。もっとバリエーションがあってしかるべきで、U-30世代には、何を全面に主張するかを考えて、強めに打ちだしていって欲しいと思った。
それから内藤先生が基調講演でmatureになっちゃいけないとか、エロスが大事だとかいう話をされていたが、それもある意味皆さんの世代に対する強いメッセージなのかなと感じる。
羽藤先生との対談でもお話したが、温泉というのは生き返る場所である。一度そこで死んで、お風呂から上がってくると生き返る。だから温泉の建物は僕の言葉でいうと、あの世のデザインをまとっている。それこそ三途の川みたいなものがあって、その先に温泉がしつらえられているケースは結構多い。再生可能な仕組みが内在していることが本来の温泉がもっている性質なので、そこからもアイデアを深めていくこともできたのかなと思う。
もうひとつアーバンデザインのコンペというのは数が少なくて、皆さん腕がうずうずしているし、していても力を発揮できる場がない。今回は、羽藤さんの無謀な企画があったのでチャレンジできた。中々こういう機会はないが、建築のコンペとアーバンデザインのコンペは、何が違うかということもよく考えてみる必要があると思う。やはりリサーチとか、リサーチに基づくエビデンは結構重要で、今日の愛媛大学の皆さんが大学の友達100人に聞いて6割が道後温泉の本館にいったことがない、というリサーチ結果から話を始めた。少し絵の迫力はなかったかもしれないけど、すごく説得力をもって僕らに伝わってきたように、リサーチとエビデンスは大切にしてもらう必要がある。それともうひとつは、皆さんのパネルを見る対象が専門家だけではないということ。建築の場合はほとんど専門家に対して回答をしめせばいいわけだが、アーバンデザインの場合は市民に対してパネルを提示するということも合わせて考えなくてはいけない。そうすると表現もなるべく平易にする必要があるだろうし、文字もちょっと小さすぎる。壁新聞のように並べたときに数メートル離れても主張が伝わるように。アーバンデザインのパネルと建築のコンペのパネルは違うということをぜひ自覚してもらうといいと思う。
私の賞は「もう少しで100点」っていってしまったこともあるが、「道後の家道」に差し上げることにした。
非常にオーソドックスな手法をとっているが、基本的に構造的に都市を見ようということをやられている。そういう意味で最初の作業としては、そういった視点からスタートしなくてはいけないのではないかと。それに対して、きちんと答えられていたのではないかということで、「道後の家道」に後藤賞を差し上げたいと思う。
先ほど窪田先生が、フィジカルプランニングかコミュニティデザインかとおっしゃったが、「道後の家道」のチームは僕の言葉でいえばフィジカルスペースを対象に捉えていたと思う。ただ、やはりそれだけではまだ足りなくて、もうひとつはソーシャルスペースをどうやってこれからデザインしていくかが合わせて求められてきている。なんとなくさっきの1.57世代諸君が細いということをいってしまったが、実はソーシャルスペースをつくっていく手法は、今のところ、部分から小さなものから積み上げていくしか方法が見つかっていない。大きなソーシャルスペースの構造をつくっていくやり方は、我々としても手法が不足しているので、そこの表現が弱くなっているかもしれない。早稲田の案に対して、「このくらいのささやかな提案は3年でやってしまえ」と言われることも、そこに背景があると思う。私からのコメントは以上である。
【羽藤先生】
後藤先生から賞をいただけるということは、ほぼ都市計画学会賞。ミスター都市計画だから、重い賞だということでコメントを。
【国枝歓】
ありがとうございます。僕らのチームは先ほど内藤先生の方から道後の本館がない状態を考えて街づくりをしてほしいということをいただいたが、僕らはむしろ観光自体がなくなったときにこの町がどう生きて行くかという、今おそらく松山市内において道後地区は人口が伸びているが、今後どんどん人口が衰退していったときに、観光だけではおそらくサバイブできないと思っている。
[ たたむ ]
都市間競争に対してサイバイブできないと思うので、今観光に頼りきりという状況を、いかに日常生活を充実する健康的な都市なのか、その都市の姿は分からないが、そこまでスライドさせるためにどうしたらいいかということを考えてデザインした。そのような立場考えているので、もちろん苦しい場面もあり、説明するのも例えば地元の住民の方に説明するのがかなりつらい。個別の絵をみていただいてコメントをいただくことはできるが、大枠の話を共有するのはかなりリテラシーが高い話だと思うので、その辺をぼくらもわかりやすく平易に伝えられる、あるいは、実際の物で説明できるようなものにしたかったなと思う。ありがとうございました。
【青木先生】
お聞きしてみれば、後藤先生より僕の方が一歳上になるらしいのですが、精神年齢でいうと僕の方が下ですね。僕も線の弱い世代です。
ちょうど今、後藤賞が出たところですが、僕は「道後の家道」は、正直あまりおもしろいとは思わなかった。それは「夢」を感じさせてくれなかったからです。
[ たたむ ]
僕は内藤さんのようには、「エロス」が必要というふうには考えていません。ですが、計画には、現状の分析からの論理的な構築が必要であると同時に、こうなったらいいな、という理想が必要だと思うのです。道後温泉が、昔のように人が押し寄せて来てドンチャンやるという町になることはもうないと思います。であれば、皆でワーと盛り上がるような楽しみでない、必ずしも「賑わい」というのではない別の楽しみのイメージが必要。(そう思うところが、線が弱いということなのですが。)
インフラは、単なる物理的基盤という以上に、そうしたシーンを支える生活の基盤です。ということは、インフラのなかにすでに、それがどのようなタイプの生活を支えるかというイメージが含まれている。インフラとシーンの、その関係を見せて欲しかったです。
今日、全体として感じたことは3つあります。1つ目は今言ったことですが、つまり、分析したり、発見したりする面ではよくできていましたが、そこからどのような未来に対する投企を構想するかが弱いと思いました。もちろん現実の世の中は、最終目標を決め、そこにどうやったら到達できるのか逆算して、その道筋をしっかり歩んでいく、というような柔なものではありません。しかし、どちらの方向に進んで行くのか、その方向性はつねに必要で、進むにつれ、その方向性を見直し調整していけばいい。
2つ目は、提案の中に「ビジョン」とか「物語」という単語がでて来ましたが、その言葉の意味が、皆さんが属している分野ごとに違っていたことがおもしろいと思いました。もちろん、どの分野での使われ方がいいということはないけれど、こういう言葉が一人歩きしていかないために、これらの言葉について議論してみることも有意義ではないか、と思ったのです。
3つ目は、自分が建築の世界にいるからでしょうが、皆さんに、空間や形の強さということについて、もう少し理解してほしい、と思ったことです。フォルマリズムがいい、というのはありませんが、ナカミがカタチを規定することがあると同時に、カタチもまたナカミを誘発するということを知ってほしい。つまり、まったく無色の、なにも誘発/誘導しないニュートラルな空間というのは存在しないのです。というと、あるカタチは人に対してある特定の行動を促す、とまるで刺激・反射弓のような話と誤解されるかもしれませんが、もちろん、そこまで単純な話ではありません。むしろ、僕たちがいつもカタチとナカミをセットで体験することによって、カタチはナカミから自由でいられない、あるいはその関係が歴史や記憶に左右されるのです。そういうなかでなにかをつくるということは、その不自由と現在の自分との間にあるもののありかたを見つけることなのです。今日、見せてもらった皆さんのプロジェクトにたぶん、建築をバックグラウンドとする人も入っていると思うのですが、建築の役割というのは、ナカミをカタチに「落とす」ことではなく、今までのナカミとカタチの関係に批評的に関わる、ということなのです。
その意味で、僕がいい試みだなと思ったのは、「都市付温泉から温泉付都市」です。たしかに、これは現実的な計画ではないでしょう。しかし、今の本館の場所から本館が消えて、もう一度そこがどうあるべきかを道後の中心として考え直す、という視点は、都市に近いことを利用した温泉というところから温泉に近いことを利用した都市という読み替えと、どう今の中心がどう関係するかを思考実験するものと感じられました。
【芝原貴史】
最初は割と網羅的に進めていって、本館を移築したらどうかというのが固まったときにはもうコンペで勝てないかもなとは思ったが、投げかけることはできたのかなと思って、そういう点では満足している。
【後藤先生】
チーム内で、これでいくことはすんなりまとまったのか。
【芝原貴史】
割とそうである。
【大木理事長】
今日は本当にいいプレゼンといただきありがとう。道後温泉を代表してお礼を申し上げたいと思う。道後温泉の本館ができてちょうど120年という大還暦を迎えたこの年に、このようなプレゼンをいただいたということは、今後の道後において、色んな角度から検討していけるであろうと思っている。
[ たたむ ]
ちょうど今から69年前第二次世界大戦で道後温泉本館が残ったということ、それはおそらく神の湯であったからであろうと思う。そいうことも含めて伊佐庭如矢さんがつくられた道後温泉であるが、69年前にも道後温泉がそのまま残りそして昭和31に道後町と松山市が合併をした。合併した後松山市の手よる120年間この建物が続けてきたというのもある意味での運命を感じるし、皆さん方はまだ小さかったかもわからないが、つい最近のことで芸予地震というのが起こった。これも道後でおきて一軒二軒の旅館が倒壊するような大きな地震があった。それにも120年間の和風建築が大きな損傷もなく今日もまだ使っていけるという風な建物であるので今後も大切に道後温泉本館神の湯を大切にしてまちづくりの、町の繁栄に努めたいと思っている。
道後温泉旅館共同組合としてはやはり今回このキャンパスで、こういう「“町の湯”道後の通い路」ということで愛媛大学の皆様方に道後温泉旅館協同組合の賞を差し上げたい。
今後もここに書いてあるように身近な存在で、道後と愛媛大学がにきたつの道できちっとつながっていくように、我々も努力するので、今後ともご指導宜しくお願いしたい。
【安田真菜】
自分たちのチームは他のチームと全く違うというのがパネルを見て頂いても一目瞭然だと思う。それは都市計画を今までやったことがなくて、私も法律系、文系の学生なのでやったことがなくてパネルも何からつくるんだというようなところから始めたので、見て頂いたらわかる結果だと思うが、自分達が重視したのはどういう提案ができるかということよりも、こういう会の場に地元住民として自分たちが参加しているということが大きいのではないかという風に考えてここに参加した。なので今回の提案はひとつのきっかけに過ぎなくて、先ほどおっしゃっていただいたように、道後にどんどんこの地元の学生として関わっていけたらなと思っている。
【羽藤先生】
都市計画とか建築とか土木とかを専門としないからこそ、ああやって生の声を集めて目的地からつくるとか、手段から考えていくみたいな発想は他のチームにはなかったと思う。それがプロのように解き方をすごく覚えている専門家の方々にいい影響を与えてくれたと思うし、大木さんはラブコールを送っているので今後とも道後温泉を宜しくお願いしますということ。
【内藤先生】
残りはひとつですね。僕が賞をあげるのは「道後かるた」にあげようと思っているけど、その前にもうちょっと全般的な話から。
愛媛大学のプレゼにあった「学生はあんまり道後に行かない」という話。あれはよかったと思う。ぶっちゃけて言うと、都市は行政や都市の専門家に任せていたからこんなになっちゃった、ということもできる。もっとたくさんの分野の人が遠慮なく論じた方がいいと思う。心理の人が論じた方がいいのかもしれないし、文学の人が論じた方がいいのかもしれないし、経済の人が論じた方がいいかもしれない。なんかたくさんの人が都市について語って提案する必要がある。都市はそんなオープンエンドなテリトリーだと思う。そういう意味で、専門外からの提案だった愛媛大学のプレゼは新鮮だった。
[ たたむ ]
全体の話から入ると、三陸に通っていて現行進んでいる計画に対する愚痴もあって言っているんだけど、計画自体が色っぽくない。艶っぽくない。粋じゃない。やっぱりエロスだとか、ロゴスだとか、ルサンチマンだとか、人間はそういうものをも抱えた存在なので、その人たちが生きていく街は、ちょっと湿り気があるとか、色っぽさがあるとか。そんなもんでしょう。先ほど道後温泉本館の話をしたけど、あの建物はかなり粋で艶っぽい。それにもっと学ぶべきだと思った。あの感じが街にしみだしていくということがすごく大事なんじゃないかな。
もし艶っぽい道後温泉本館が仮囲で囲まれたときに、あの街にどの程度艶が残っているかというのは、大木さん、心配だよね?だからなんとかしないといけない。あの建物の本質を見るとまちづくりの本質が見えてくるはず。
ちなみに戦災復興計画のときに、東京都で中心になった石川栄耀という戦後都市計画の大御所がいるけど、この人のライフワークは盛り場の研究ですよ。夜盛り場がどうなっているかをサーベイしたり研究したりして、それで中野のサンロードやったり、浅草の仲見世やったりしている。やっぱり計画している人間は人間の生の感情を掬い上げなくてはいけないんじゃないかな。その意味では今回の計画は押し並べて色っぽさがなかった。色艶がない、ということ。これからはもっと色っぽい計画をつくってくれないかな。
セクシーな計画。インフラだってセクシーなインフラがある。別に下水道網を見てなんかセクシーだなというのがあってもいいと思うし、それから例えば土木橋梁の世界でも震災復興計画で太田円蔵がやった永代橋なんてセクシーだと思う。あれはもう、ザ土木だけど百年間セクシーであり続けるなんてたいしたものだと思う。そういうものが今の時代に欠けている。
「道後かるた」については、パネル審査のときにも言ったけど、提案されたのは表通りで「裏かるた」があったほうが良い。子供には見せられないようなものが入ってもいいと思う。浮世絵なんて表にでてないけど春画でとんでもないものもある。世の中は表と裏があって、公明正大な表のストーリーだけで計画を造ると味気ないものになってしまう。
たとえば、住宅の設計だって同じ。普通は家族4人いるよね。キッチンがあってダイニングがあって、そういう計画手法がある。しかし別の計画手法だってある。住宅というのはセックスと排便から設計するという設計の仕方もある。それは両方だと思うよ、きっと。常に隠されているものが半分ある。隠されているもののほうがリアルだっていうこともある。都市も同じだと思う。だから、この提案に「裏かるた」があったなら僕はもろ手を挙げて100点をあげたと思う。特に道後にはこれからそういうところが大事なんじゃないかと思う。
【吉田涼子】
エロスとは違うかもしれないが、何をやってもいいといわれたときに、もともと建築の仕事を受けるときに何㎡で決められているという状況に対して、それをどう影響したいかというのから始めてかるたに行き着いた。そういう意味で仕組みに興味があったが、結局つくってみると例えば模型をつくるとなったときに、両面印刷すれば済む話だが、わしにのりを貼って夜な夜な切らないと気が済まないという自分がいると。結局、自分は物の側にたっているのかなということを、逆に実感させられた。
[ たたむ ]
今日昼休みに女の子が来てくれて、かるたがどうしてもほしいと言われた。展示物がなくなって困るので、予備の作りかけのものをあげようとしたらこれはいやだと、帯がはってないといやだと。そういう風に言ってくれたので、ものにエロスがあるというのは、その女の子が感じてくれたのかなと思った。なので、裏かるたをつくるのであれば、もし私が建築設計者であれば、実際の建築設計プロジェクトにかるたのネタが落ちたときにエロス全開な建物をつくってみたいと思う。
【羽藤先生】
先ほどからエロスの話が大人も若手も続けていて、よく恥ずかしくないなと思うが、フロイトの二元論でエロスとタナトスというのがあって、エロスの逆はタナトスである。タナトスというのはここではなくどこかに行くという衝動のことをいう。
[ たたむ ]
この都市計画設計競技のサブタイトルは移動風景の再生と展開、人はなぜ移動するのか、移動しなければ道後温泉というところがこれだけ栄えてそれからこの風景を継承していくということはなかったと思う。どういう衝動で人がこの場所にくるのかということをより掘り下げて人の欲求、欲望、希望あるいは後藤先生の言葉を借りるとあの世とか、転生というか、そういったところまで非常に深めるような形でもう一度根本的なところ、なぜここがこの場所であるべきなのかとか、あるいは人が本当にここにずっと集まり続けられるのかといったところまでこれをきっかけに考えてもらいたい。
あと、こういう設計競技をするとU-30と区切ったことの理由は、この世代の方々がどういう風に考えるかということに僕自身すごく興味がある。興味があると同時に期待もある。この世代が本当に都市のことを考えてくれないと困ると思って、こういう課題を全国に向けてだしている。それは、後藤先生なんかも同じことを思って下さっていると思うし、ここにおられる審査員の方々は同じことを思ってくださっていると思う。
都市が今のような状況だとするとたぶん大木さんも非常に困ったことになると思うし、道後も非常に困ったことになると。ここでやっぱり非常に未熟だからこそ、たぶん遠くに向かって石を投げる、よく内藤先生がよくおっしゃられる言葉だが、
大遠投する、新しい都市像をだしてくれる。そこに向かってやっていく。それがかつては伊佐庭さんだったと思うし、そこにつながるような発想とかあるいはアイデアとか飛躍、跳躍みたいなものは今回の都市計画設計提案競技で感じられて、私自身は非常に満足している。「道後六物語」が最優秀賞を受賞されたということで、非常に象徴的な案が最優秀になったのでよかったなと思ったりもするし、審査員の間では非常に議論も票も割れていて、ああこういう風に人のタイプによって好む都市像が違うというのも、私には非常に勉強になった。誰が誰に票を入れたかというのは、一人二票ずつ入れて審査したのでなんとなくそちらで想像してもらえれば楽しめるのかなと思う。
ここに道後の方々も何人か見えられていると思うが、今回のこういう競技がこれだけで終わるのではなくてもちろん内藤さんも私も遠藤副市長も道後のことに今まさに関わっているわけだが、ここにいる若手の方が一人でも二人でもぜひ我々のプロジェクトに参画しいただけることを非常に強く期待している。ということで審査員会からの講評を、拍手をもって終わりたいと思う。
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