第12回行動モデル夏の学校2013は,東京都・文京区の東京大学本郷キャンパスにて,2013年9月21日(金)~9月22日(日)の2日間,講師8名,参加者74名,若手研究者セッション講演者3名によって行われました.以下にその内容をまとめます.
基調講演 Keynote Speech
New Generation Large Scale Activity Microsimulation Models (SimAGENT) & Data Needs Kostas G. Goulias (University of California Santa Barbara)
現在,温室効果ガスの削減が大きな課題として取り上げられており,大規模な州や地域レベルの交通モデルが求められている.SimAgent for SCAG は南カリフォルニア地域の大規模な交通行動をシミュレートするために開発された.SimAgentはPopGenとCEMSELTS,CEMDAPの3つのモジュールから成る.PopGenは与えられた人口などのデータから基本的な8属性の生成を行う.次にCEMSELTSでPopGenで生成した個々の世帯や人物に対して,就学,職種や保有する車種といったさらに詳細な社会経済属性を付与する.そしてCEMDAPはこれら2つのモデルによって生成されたエージェントの活動スケジュールを生成する.こうして得られたシミュレーションデータから4段階モデルで用いるOD表を作成すると同時に,自動車の利用者のアクティビティに着目することにより,CO2などの環境効果ガスの影響を計算することが可能となる.講義ではモデルの説明だけでなく,人口分布や時間帯ごとの道路混雑などシミュレーションによるアウトプット例を紹介した. |
講義 Lectures
講義1 行動モデルの基礎理論と推定手法倉内慎也(愛媛大) / 佐々木邦明(山梨大)
Slides(倉内先生) ロジットモデルはプロビットモデルに比べて操作性が高くて便利だが,多くの仮定に基づき,その仮定の正しさを検証する必要がある.中でも重要なIIA特性を緩和するため,個人属性を入れるなどのテクニックと理論について講義を頂いた. |
Slides(佐々木先生) ロジットモデルの推定のときに毎年引っかかるポイントとモデルの選び方について.毎年,ヘッセ行列の逆行列を求められないときが多い.誤差項が完全相関しているときや初期値の設定次第で詰まる.モデルの選択は,データの基礎集計結果や自分自身の行動原理を顧みて決めて欲しい. |
講義2 ネットワークモデルの基礎と応用 円山琢也(熊本大) / 中山 晶一朗(金沢大) / 井料隆雅(神戸大)
Slides(円山先生) 熊本都市圏PT調査について.12万 世帯を対象にアンケート調査を行った.紙での調査に加え,スマートフォンによる調査も実施した.問い合わせ対応に苦労したことや,スマー トフォン調査の今後の対応について紹介して頂いた. |
Slides(井料先生) 4段階推定法をはじめとする通常の交通量配分では需要からOD表を決めてネットワーク配分を行うが,実際には混雑のフィードバックによりODは変化するので動的交通量配分が望ましい.配分においてはWordropの第一原則を始めとする均衡条件が定められているが,均衡状態には均衡解そのものの存在や一意性,安定性が問題となっており,静的な配分ではこうした知見が早く得られているが,動的配分においてはちょっとした条件で解が存在しなくなってしまう.講義では,こうした解が存在しなくなる例をいくつか挙げ,収束計算や動学化において結果を確認・理解することの重要性を指摘した. |
Slides(中山先生) ネットワークの選択にロジット型の選択を用いる場合の難しい問題は,経路選択肢の決定の問題,ロジットモデルのIIA特性による経路重複の問題,そして旅行時間の分散の問題がある.こうした問題に対処するため,ワイブル分布を用いた選択モデルが提案されている.講義ではロジットモデルを更に一般化し,かつロジットモデル同様にクローズドフォームの形で尤度関数を計算できるツァリス一般化ロジットモデルの導出を行った.このモデルは誤差項にワイブル分布を用いたワイビットモデルを含んでおり,ネットワーク配分の計算にも用意に拡張可能であると考えられる. |
若手研究者セッション Early Bird Session
Reassessing accident risk indicators: A risk-benefit perspectiveMakoto Chikaraishi(The University of Tokyo)
Modeling Social Interactions Between Households For Evacuation Behaviors In the Devasted AreasJunji Urata(The University of Tokyo)
Social Interactionsは交通弱者の日常移動,災害時要援護者の避難の助けの点で有効である.研究では,世帯間の協調行動形成の選好として利他的選好を導入し,定義として個人の利得の差分を導入した.これらの協調行動の形成ペアの生起確率としてCNL型のモデルを導入し,定式化を行った.ケーススタディとして,新居浜市土砂災害における個人行動データを用いて,基礎分析とモデル推定を行った結果,パラメータ推定結果としては,被害度の差・老人人数の差・世帯間の距離が有意となり,アロケーションパラメータは被援助側の帰属度が大きいという結果を示した. |
Combined estimation of activity generation models incorporating unobserved small trips using probe person dataSohta Itoh(The University of Tokyo)
PP調査は従来の紙媒体のアンケート調査と異なり,リアルタイムでの位置情報・移動情報が与えられるが,一方でサンプル数が少なく母集団代表性には欠ける.同一の項目を調査したPP/PTの両データを用いて,アクティビティ発生モデルにセレクションモデルを統合した融合推定を行なうことでトリップの抜け落ちを補正した. |
演習 Group work
課題:プローブパーソンデータを用いた行動モデル推定
プローブパーソンデータ(ロケーションデータ,ウェブダイアリー)・土地利用データ・交通ネットワークデータを用いて,離散選択モデルをはじめとした行動モデルの構築と推定を,4~7人での班ごとに行い,成果を発表しました.
Aチーム(愛媛大学チーム) 平日・休日における時間価値に着目した代表交通手段選択モデル
概要: 平日・休日における時間価値に着目した代表交通手段選択モデル
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Bチーム(東京工業大学チーム1) 非通勤系トリップチェーンの行動分析
概要:
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Cチーム(東京工業大学チーム2) 健康意識が交通行動に及ぼす影響評価
概要:
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Dチーム(熊本大学チーム) 来街交通手段と滞在時間の分析
概要: ゾーンの魅力が上がるほど,人々の回遊に要する時間は増加すると仮定した.その滞在時間を延ばすためには,移動時間を短縮させることが大きな要因となる.そこで,交通手段別の滞在時間を求めるために,生存関数を用いた滞在時間推定モデルで分析を行った.
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Eチーム(名古屋大学チーム) アクセス・イグレス時間の短縮による公共交通機関への影響
概要:
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Fチーム(芝浦工業大学チーム) 身の周りの変化を考慮した交通機関選択の変化
概要: 事前分析で,気温や天気により交通機関の選択割合が変化することがわかった.そこで,①気温抵抗感(外時間×25度との差)を変数とした機関選択モデル②同一個人で同OD通勤目的での手段変更モデルの2つのモデルの構築を試みた.気温が低くなると外時間が少ない交通機関を選択する傾向が見られた.
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Gチーム(芝浦工業大学・社会人混成チーム) 鉄道駅へのアクセス距離に着目した出勤時の交通機関選択モデル
概要: 電車のアクセス距離およびイグレス距離別にみた出勤方法について分析した.政策シミュレーションとしてアクセスおよびイグレス距離が長い人が距離を縮めることにより,自動車から電車に移動手段を変更するようにした.
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Hチーム(神戸大学チーム) 同伴人数に着目した交通手段選択モデル
概要:
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Iチーム(広島大学・山梨大学混成チーム) 土・日の異質性を考慮した休日消費活動分析
概要:
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Jチーム(東京大学チーム1) リピーターに着目した寄り道行動モデル
概要: 事前に配布されたデータを眺めていると調査が行われた期間に同じ施設に複数回訪れている人が見つかった.そこで同じ施設を訪れるリピーターの行動に着目し仕事帰りの寄り道が発生する原理を考察した.結果,仕事帰りの寄り道の発生に影響する要因をいくつか発見し,寄り道行動に関する知見が得られた.
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Kチーム(東京大学チーム2) Leisure time choice model based on past activity memory
概要: 義務的トリップ後の娯楽系トリップに注目した.その滞在時間がどのような要因によって規定されているのかを明らかにするため,離散連続モデルを構築しパラメータ推定を行った.個人の過去の行動履歴の変数が有意で,過去の行動履歴が義務的トリップ後の滞在時間に大きな影響を与えていることが分かった.
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Lチーム(社会人混成チーム1) CO2排出削減効果推定のための通勤時に着目した交通手段選択モデル
概要: CO2削減を目的とし,自動車から鉄道の交通機関転換を図るためのモデルを作成した.結果,自宅から駅の標高差を無くす場合,自動車から鉄道へ転換する人数が81人中13人であることを試算した.また,この結果から,横浜市全体の通勤者のCO2削減量が10151トンであることを試算した.
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Mチーム(社会人混成チーム2) 鉄道駅までの高低差に着目した交通手段選択モデル
概要:
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表彰 Award
数理的にモデリングをつめられていたグループには,故・上田孝行先生にちなんだ香住賞が,行動分析によって興味深いfact findingを実現したグループには,故・北村隆一先生にちなんだDavis賞がそれぞれ贈られました.更に今年は,プレゼンや成果物の質の高さを示したチームに審査員特別賞が贈られました.
香住賞:Kチーム(東京大学チーム2) Leisure time choice model based on past activity memory
Davis賞:Fチーム(芝浦工業大学チーム) 身の周りの変化を考慮した交通機関選択の変化
審査員特別賞:Mチーム(社会人混成チーム2) 鉄道駅までの高低差に着目した交通手段選択モデル